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GoToトラベル事業を利用した旅行者数が増加

国土交通省によれば、GoToトラベル事業の利用者数は、7月27日から8月27日までの1か月間で約556万人に達したという。また観光庁の宿泊旅行統計調査によれば、日本人の延べ宿泊者数は、6月の前年同月比-61.2%に対して、7月も前年同月比-45.7%と低迷を続けていた。この数字からは、GoToトラベル事業が、感染拡大の逆風の中、国内旅行を強く喚起したようには見られない。ただし、月次の統計にその効果が本格的に表れるのは、8月調査からだろう。

一方、大手旅行サイトを使った8月の予約人数が32道府県で前年同月を上回ったことが、日本旅行業協会の集計で2日に明らかとなった。9月も予約人数は既に36道府県で前年を上回っているという。旅行代理店経由や宿泊施設への直接予約は含まれておらず、それらは前年比で減っているとの指摘もある。従って、大手旅行サイトの予約人数のみから、全体の旅行者数の動向を占うことはできない。

しかし、GoToトラベル事業を利用した旅行者数が徐々に増えてきていることは確かだろう。そこで、GoToトラベル事業の支援を受けて、国内旅行者数、旅行消費額は前年並みの水準まで戻ってきたと仮定してみよう。

GoToトラベル効果と感染リスクへの警戒が拮抗した状態か

筆者は、GoToトラベル事業によって、日本人の国内旅行の関連消費額が40%増加し、1年間で個人消費を8.7兆円増加させる、と試算した(コラム「 東京除外で減少するGo Toトラベルの消費押し上げ効果は1.5兆円程度か 」、2020年7月17日)

ただしこれは、予算の増額を伴い、GoToトラベル事業が1年間継続した場合の効果を試算したものである。さらに、感染リスクによる旅行抑制効果は考慮していない。

現時点で、国内旅行が前年水準にあるとすれば、GoToトラベル事業の効果と感染リスクによる旅行抑制効果とが概ねバランスしている、つまり両者が打ち消し合い、追加的な効果は生じていない状態、と考えることができるだろう。感染リスクへの警戒が、国内旅行を40%程度抑制しているのが現状と考えることができる。

感染リスクへの警戒を考慮に入れたGoToトラベルの消費押し上げ効果は4.3兆円

ただし、現時点での感染リスクへの警戒の程度が今後もずっと続くと考えるのは悲観的過ぎるだろう。そこで、この先は感染リスクへの警戒の程度が半減し、その旅行抑制効果が半減すると考えてみよう。その場合、感染リスクへの警戒を考慮に入れたGoToトラベル事業の個人消費の押し上げ効果は、従来の計算の8.7兆円の半分、4.3兆円となる。

東京追加の効果は1年間で7,700億円

ところで、9月11日のコロナ分科会で、東京をGoToトラベル事業の対象から除外する措置が撤回される可能性がでてきた。以上の試算値は、東京も含んだ数字であるが、実際には、東京が除外されている間は、その分だけ個人消費の押し上げ効果が減ると考えることができる。東京都の都民所得は全国の17.8%であることを踏まえると、その規模は7,700億円である。従って、東京がGoToトラベル事業の対象に加われば、感染リスクへの警戒を考慮に入れても、個人消費の押し上げ効果は1年間で7,700億円、追加で高まる計算となる。それは、比較的大きい経済効果と言えるだろう。

ただし、以上の試算結果とは別に、感染リスクが相応に高い現状下で、政府が補助金を通じて感染リスクを高めかねない旅行を積極的に支援するGoToトラベル事業の妥当性自体には、疑問の余地もある。旅行関連業者の支援は、現状ではなお給付金を中心とすべきではないか。

 

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。