企業の倒産を防ぐ政府の企業支援策
日本銀行は10月22日、半期に一度の「金融システムレポート」を公表した。そこでは、コロナショックによって手元資金が減少し、流動性危機に見舞われるリスクが中小企業を中心に高まることを示す分析がなされている。
最も打撃を受けている中小企業の小売、飲食・宿泊・対個人サービスでは、手元資金の水準は経費(販管費)の1か月分程度に多く分布しており、売り上げが大きく落ち込めば直ぐに流動性危機に直面するリスクが高い。短期資金不足先の割合は、大企業では昨年度からほぼ変わらないが、中小企業では昨年度の8%程度から、20%程度まで上昇する計算になるという。
しかし、このような環境の下でも、企業の倒産数の増加が未だ限られ、銀行にとってデフォルト率が大きく高まっていないのは、持続化給付金、家賃支援給付金、雇用調整助成金、実質無利子融資などの政府の企業支援策の効果によるところが大きい、というのが日本銀行の分析だ。それは確かだろう。
他方で、日本銀行が政府の貸出支援制度に連動させている銀行への融資制度が、銀行のプロパー融資や銀行の収益にどの程度の影響を及ぼしているのか、深い分析をここで示して欲しかった気がする。
流動性リスクがソルベンシー(財務健全性)リスクに転化
政府の実質無利子融資制度は、コロナショックによって大きな打撃を受けた中小企業の流動性リスクの軽減に、かなり役立っているはずだ。しかし、手元流動性が確保できるだけで、こうした企業の問題が解決される訳では決してない。
売り上げが回復しない中、借入を増やしていけば借金ばかりが積み上がってしまう。赤字が続く中、自己資本が低下を続け、そうした企業はいずれ倒産に追い込まれるだろう。あるいは、借金が返済できるうちにと、自ら廃業を決めることになるだろう。
「金融システムレポート」でも指摘されているが、実質無利子融資制度などの政府の企業金融支援策は、当面の資金繰りを助ける一方で、債務の累増を促して、企業の債務返済能力を低下させてしまうことになる。流動性リスクが、ソルベンシー(財務健全性)リスクへと、転化していくのである。
この意味で、政府の企業支援策は一時的な支援でしかない。企業の売り上げが戻らなければ、やはり企業は存続できず、倒産、廃業はいずれ増えていくだろう。その時点でデフォルト率の上昇から、銀行の信用コストも顕著に上昇し、収益を圧迫していく。
銀行の事業性評価の実力も試される
そこで、企業の存続のためには、資本の拡充が必要になっていくのである。政府は政府系金融機関等による資本性資金供給の制度を作ったが、民間銀行も、企業に対して資本性資金の供給を実施すべきかどうかの判断を迫られていこう。このように、企業のリスクが流動性からソルベンシー(財務健全性)に移っていく中、企業を支援する銀行がとるリスクも、さらに増加していくのである。銀行にとっての正念場は、むしろこれからなのではないか。
コロナショックの影響が長引き、売上高の低迷が続く中、果たして長い目で見てどの企業の将来性が高く、銀行がよりリスクをとっても資本性資金を注入していくべきなのか、銀行の事業性評価の実力、目利き力がこの先試されていく。
プロフィール
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。