物価見通しの下方修正はさらに続く
日本銀行は10月28・29日に開かれた金融政策決定会合で、金融政策の現状維持を決めた。大方の事前予想通りであり、会合は無風で終わったと言える。
展望レポートでは2020年の成長率見通し(中央値)が前回7月の-4.7%から-5.5%へ、消費者物価(除く生鮮食品)見通し(中央値)が前回7月の-0.5%から-0.6%へと、それぞれ下方修正された。
下方修正自体は事前予想通りだが、物価見通しの下方修正幅は思ったよりも小さかったとの印象だ。今回の成長率見通しの修正から推察すると、物価動向に大きな影響を与える2020年度と2021年度の需給ギャップのイメージは下方修正されたと見られる。その中で、2021年度の消費者物価見通しが上方修正されたことには違和感を覚える。
2020年度の物価見通しの下方修正には、政府の観光支援事業Go Toトラベルのもとでの宿泊代への政府補助が影響していると見られる(コラム「 日銀金融政策決定会合の注目点:物価下落への対応がいずれ焦点に 」、2020年10月28日)。ただし、Go Toトラベルは、来年度にかけて延長される可能性が相応にある。またこの先、携帯通信・通話料金の引き下げが、物価をさらに押し下げる可能性が高まっている。
物価の下振れは、このような一時的な要因によるものだけではない。日本銀行の推計によると、2020年4-6月期の需給ギャップは前期から一気に5%ポイント悪化した。これは、半年から1年先の物価上昇率を1.2%押し下げる計算となる。コロナショックによる物価の下振れ傾向は、むしろこれから本格的に表れるだろう。
2022年度物価見通しも来年にはマイナスに下方修正される可能性
そのため、2021年度の物価見通しについても、次回来年1月の展望レポートでは下方修正となる可能性が高いのではないか。さらに、来年4月の展望レポートでは、2021年度の物価見通し(中央値)がマイナスになる可能性もあるだろう。
日本銀行は、現在2%の物価目標の達成を一時的に棚上げしていることなどから、こうした物価見通しの下振れが、追加緩和策の実施に直結することはないと考えられる。
しかし、2020年度に続いて2021年度の物価上昇率も、2年連続でマイナスになるとの見方が広がれば、政府はデフレ再燃を警戒し始めるだろう。その際には、日本銀行に対して2%の物価目標の達成というよりも、デフレ回避のための追加的な対応を要求する可能性もある。
日本銀行は物価の下振れだけで追加緩和を実施しない
日本銀行は、少なくとも2%の物価目標について、より明確な説明を求められるようになる可能性はあるだろう。このように、物価の下振れをきっかけに、来年前半にも、日本銀行の政策運営は再び正念場を迎えることになるのではないか。
ところで日本銀行は、物価の下振れだけで追加緩和策を決める可能性は高くないと見られる。物価を押し上げるような有効な金融緩和手段はもう残されていないうえ、追加措置は金融機関の収益を一段と悪化させるなど、副作用が相応に高まるためである。
欧米の中央銀行が年末にかけて追加緩和措置を実施する可能性が相応にある中、日本銀行が追加緩和を見送り続けることで、為替市場では徐々に円高圧力が高まっていく可能性は排除できない。
特別オペ延長のカードを切るタイミングを見計らう
今回の会合では、来年3月末となっている新型コロナウイルス対応の金融支援特別オペについて、延長などの制度変更は見送られた。筆者は事前にその可能性を見ていたが、期限までにまだ時間的猶予があることが見送られた最大の背景なのだろう。ただし、次回12月の会合では、延長が決められる可能性は高いと思われる。それ以外にも、6か月の貸出期間の延長や担保要件の緩和も、今後、オペ制度見直しの選択肢となるだろう。
オペの延長などの制度見直しは、追加金融緩和措置とは位置付けられていない。しかし、日本銀行は、それを追加緩和策に準じるものとして、政府と市場に対するそのメッセージ性には注意を払っているのではないか。例えば、政府が3次補正予算編成を決めるタイミングに合わせてオペの制度見直しというカードを切れば、政府との協調姿勢を演出することができる。
他方で、欧米で追加緩和策が実施される中で、日本銀行が追加措置を見送るゼロ回答を続ければ、円高が進むリスクが生じる。そこで、そのタイミングに合わせて期限延長などのオペ制度見直しのカードを切るのである。
今回の会合では、双方の観点から、カードを切るタイミングではなかった、とも言えるのだろう。
プロフィール
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。