米国7-9月期実質GDPは+33.1%と予想を上回る高成長
米商務省が10月29日に発表した2020年7-9月期GDP統計で、実質GDPは前期比年率+33.1%と、大幅マイナスとなった前期(4-6月期)の同-31.4%の下落率を上回る増加率となった。これは、事前予想の平均値を上回っている。
11月16日に発表される日本の7-9月期実質GDPは、現在のところ予想平均値で前期比年率+14%程度と、前期の下落率の半分程度の増加率となっている。これと比較すれば、米国GDPの戻るペースは格段に速い。この統計を見る限り、Ⅴ字型回復に近いものと言えるだろう。影響力は限られるだろうが、11月3日の米大統領選に向け、劣勢が伝えられるトランプ大統領にとっては支援材料の一つである。
7-9月期成長率の内訳寄与度をみると、前期比年率+33.1%のうち+25.3%ポイントと、その大半は個人消費の増加によるものだ。さらに個人消費の中の細目を見ると、医療関連の寄与度が+7.6%ポイント、飲食・宿泊が+4.3%ポイント、レクリエーションが+2.4%ポイントと、コロナショックで大きな打撃を受けたサービス業種での成長寄与が、特に大きくなっている。
個人消費以外も、設備投資、輸出、在庫投資など主要な需要項目は、いずれもGDPにプラスに寄与した。唯一マイナスとなったのは、政府支出(政府消費と公共投資)である。職員の自宅待機に伴う一部公的サービスの低迷、などが背景にあるのではないか。
コロナショック前のGDP水準を取り戻すのは2021年に
米国の7-9月期実質GDPは事前予想を上回ったが、それでもコロナショック前の実質GDPのピークの水準を取り戻すには至っていない。2019年10-12月期の実質GDPの水準を、依然として3.5%下回っている。
他方、2020年10-12月期の成長率は、7-9月期から大幅に減速することは避けられない。現在のところ、前期比年率+3%程度がコンセンサスではないかとみられる。2020年10-12月期に実質GDPがコロナショック前の実質GDPのピークである2019年10-12月期の水準を取り戻すためには、前期比年率+15%を超える高成長が必要となるが、その実現可能性は極めて低い。
そもそも7-9月期の高成長は、4-6月期の大幅な落ち込みの反動という側面が強く、持続的なものではない。さらに、経済対策を巡り与野党間での対立が長く続く中、今まで実施してきた経済対策が失効することによる成長率の押し下げ効果、いわゆる「財政の崖」が既に生じており、10-12月期あるいは来年1-3月期の成長率を押し下げよう。
7-9月期の高成長は感染再拡大のリスクと引き換え
米国で実質GDPがコロナショック前の水準を取り戻すのは、2021年にずれ込む可能性が高い。既にそれを達成したとみられる中国に比べれば、米国経済の回復力は劣っていると言えるだろう。また、米国では、感染者数増加の第3波が見え始めている。7-9月期の高成長は、経済活動の再開を優先した規制緩和措置による感染の再拡大、というリスクと引き換えに手に入れたもの、という面もあるだろう。
今後、感染抑制のために各種行動規制が再び強化されれば、実質GDPがコロナショック前の水準を取り戻す時期は、さらに先送りされていくだろう。また、感染抑制により前向きな民主党政権が来年成立すれば、その可能性はさらに高まるかもしれない。
コロナショック後の経済の回復力で主要国間の差が広がる
欧州では、南欧地域と英国を中心に感染者数の増加が顕著となっている。そのもとで、フランスでは部分的なロックダウン(都市封鎖)措置が、全国的な広がりを見せ始めており、最終的には多くの国で今春と同様の強い規制措置へと発展する可能性さえあるだろう。
そのもとで、欧州地域のGDPは、7-9月期に増加に転じた後、10-12月期には再び小幅マイナスに陥る「二番底」の様相も呈し始めている。夏のバカンスシーズンを前に、規制を一気に緩和したことが感染者数の再拡大を招いてしまった、という側面もあるのではないか。
他方、日本の経済状況は、概ね米国と欧州の中間にあるのではないか。主要国でのコロナショックからの立ち直りに敢えて序列を付ければ、中国>米国>日本>欧州、の順となるだろう。コロナショック発生直後と比べると、各国・地域間のばらつきが大きくなっている。立ち直りの差異は、各国・地域の経済がもともと持っている潜在力の違いに加えて、感染状況の違いに起因している面が大きい。
経済の再開を急いで感染対策を拙速に緩めるのではなく、感染リスクの抑制に比重を置いた政策を進めた方が、結局は経済活動の戻りも早くなる面があるだろう。今後の主要国間の経済状況の違いによって、この点が次第に明らかになっていくのではないか。
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。