インフラ投資の大幅拡大への期待はやや後退
11月3日の米国大統領・議会選挙を受けて、民主党が大統領と上下両院を同時に制する「トリプル・ブルー」の実現可能性はほぼなくなった。民主党は下院での過半数はなんとか維持するが、上院での過半数獲得は難しくなっている。トリプル・ブルーのもとで、インフラ投資が大幅に増加する、との金融市場の期待も消えてしまった。
他方、米国株式市場はバイデン候補優勢の状況を総じて好感し、米国時間4日には大幅高となった。さらに、ねじれ議会が続くもとで、バイデン候補が掲げる法人税率引き上げ、富裕者増税策の実施は難しいとの観測も株高を後押しするという、まさに「いいとこどり」の解釈となっているようだ(コラム「 バイデン候補優勢も米大統領選挙結果は法廷闘争か 」、2020年11月5日)。
追加金融緩和期待が高まる
他方、選挙後の米国金融市場では、長期金利が大幅に低下すると共に、緩やかなドル安・円高傾向が生じている。これは、大統領選挙の結果を巡る法廷闘争が生じ、結果の確定が遅れることへの警戒、つまりリスク回避の傾向を反映している面があるだろう。それに加えて、米連邦準備制度理事会(FRB)が追加緩和に動くとの期待が強まっていることもある、と見られる。
バイデン政権のもと、そしてトリプル・ブルーのもとで積極的なインフラ投資が実施されるとの期待が後退する中で、それを補う観点から、FRBが追加緩和を実施するとの観測が高まっているのである。
FRBが期待するのは目先の財政出動
FRBは、米国時間5日まで、金融政策を決める連邦公開市場委員会(FOMC)を開いている。ただし、そこでは本格的な追加緩和策が決まる可能性は低そうだ。大統領選挙の結果が確定しない間に金融政策を大きく変更すれば、FRBが政治闘争に巻き込まれるリスクも生じるためだ。ただし、FOMC後の記者会見でパウエル議長が、財政政策の発動を改めて政府・議会に要請する可能性はあるだろう。
しかし、FRBが期待している財政出動とは、向こう4年間といった長期のものではなく、コロナショックで大きく打撃を受けた、まさに足もとの米国経済を支援するための、目先の措置だろう。FRBの今後の政策を、大統領選挙の結果と結びつける市場の解釈には、やや無理があるのではないか。
追加経済対策で与野党間の対立が長引き、それ以前に打ち出した経済対策の効果が剥落することで景気に悪影響を与える、いわゆる「財政の崖」が生じていることを、FRBは強く警戒しているのである。
追加経済対策で合意が成立するかが注目点
追加経済対策を巡る与野党間で合意を難しくしていた最大の要因である大統領・議会選挙が終了したことで、追加経済対策が早期に成立することをFRBは期待しているだろう。
しかし、選挙結果の確定が遅れれば、追加経済対策での与野党の早期合意もまた難しくなる可能性はある。その場合、今後の経済・金融市場動向次第ではあるが、12月15・16日の次回FOMCで、追加緩和措置が実施される可能性が高まるだろう。また、選挙結果の確定が遅れ、政治空白への懸念から金融市場が不安定になる場合にも、12月のFOMCで追加緩和が実施される可能性は高まろう。
しかし、パウエル議長が財政出動への期待を何度も口にするのは、コロナショックに対して有効な金融緩和手段が残されていないことの裏返し、とも言えるのではないか。仮に12月の次回FOMCで追加緩和が実施されるとしても、直接的な経済への影響は限られ、金融市場を安定化させる効果にとどまるのではないか。
ところで、FRBはトラン大統領から度重なる金融緩和要請を受けてきた。バイデン政権が成立すれば、FRBはそのような政府からの理不尽な政治介入は受けなくなり、FRBの独立性は高まるだろう。それ自体は、通貨価値の信認を高め、ドル高要因となる。
こうした点から、FRBとりわけパウエル議長は、バイデン政権の成立を強く期待しているものと思われる。
プロフィール
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。