12月14日に日本銀行は短観(12月調査)を発表した。コロナショックを受けて急激に悪化した企業の景況感は、前回9月調査に続いて改善し、日本経済が持ち直し傾向を続けていることを裏付けるものとなった。他方で、先行きの景況感の見通しは非製造業を中心に弱く、今後の感染状況次第では日本経済が来年初めにかけて再び小幅なマイナス成長に陥る、「景気二番底」のリスクを意識させる結果となっている。
V字型回復には程遠い緩やかな持ち直し
短観調査で最も注目を集める大企業・製造業の業況判断DI(現状)は「-10」と、前回比17ポイントの改善となった。事前予想の平均値は13ポイント程度の改善であり、それを上回る改善幅となった。また大企業・非製造業の業況判断DI(現状)も、事前予想を幾分上回る改善となった。
景気持ち直しの最大の牽引役を果たしているのは、自動車産業である。今回の短観でも、自動車の現状判断DI(大企業・製造業)は48ポイントの大幅改善であった。また自動車に関連する鉄鋼、非鉄金属などの素材産業の景況感の改善も目立っており、自動車生産回復の波及効果の大きさがうかがい知れる。
他方、非製造業では、GOTOトラベル事業の後押しもあって、宿泊・飲食サービスの景況感改善が、すべての企業規模で際立っている。
しかし、コロナショックで大幅に悪化した経済、企業景況感の持ち直しペースはかなり緩やかなものであり、いわゆるV字型回復には程遠い状況だ。大企業・製造業の業況判断DI(現状)は、コロナショックを受けて3月及び6月調査で合計34ポイント悪化したが、9月調査、そして今回の12月調査の改善幅は合計でまだ24ポイントに留まる。
回復ペースがかなり緩やかなのは、内外で感染リスクが緩和されていないことが主な背景と言えるだろう。
景気二番底のリスクを映す
業況判断DI(先行き)を見ると、大企業・製造業は2ポイントの改善が見込まれているが、改善はかなり小幅だ。他方大企業・非製造業では、1ポイントの下落となった。非製造業の中堅企業、中小企業では下落幅はさらに大きい。全規模全産業で見ても3ポイントの悪化である。前回9月調査での全規模全産業の業況判断DI(先行き)が1ポイントの改善だったことを踏まえると、先行きの見通しはより厳しくなっている。
内外での感染の再拡大や、国内でのGOTOキャンペーンの縮小、停止観測などが、非製造業を中心に先行きの景況感見通しを弱くしている。大企業・非製造業では、小売業の先行きの見通しが急激に悪化している点も気がかりだ。
今回の短観調査は、今後の感染状況次第では、日本経済が来年初めにかけて再び小幅なマイナス成長に陥る「二番底」のリスクがあることを示唆しているのではないか。11月の景気ウォッチャー調査で、現状判断DIが7か月ぶりに下落し、また、先行き判断DIがそれ以上の幅で下落した点にも、「二番底」リスクが確認できる。
供給過剰下でストック調整が進む
このように、景気の持ち直しペースが緩やかにとどまる中、需給ギャップの悪化、供給過剰傾向は長期化している。これは、企業の収益性悪化に伴う形で、設備と雇用の調整、いわゆるストック調整を促している。この点が、今回の短観調査でも確認できた。需給判断DI、在庫判断DI、雇用判断DIは改善したもののいずれも小幅であり、その水準はコロナショック前と比べてかなり悪化した状態が続いている。
2020年度設備投資計画(全規模・全産業、含む土地投資)は-3.9%と、前回9月調査のー2.7%からさらに下方修正された。3月調査時点では、過去(2000~2019年度)の平均を大きく上回る前年度比増加率で始まった同計画は、その後下方修正が繰り返されており、過去の平均計画からの下方乖離の拡大が続いている。
他方、雇用環境の改善も遅れている。全規模全産業の雇用判断DIは、前回比2ポイント改善とほぼ横ばい状態を続けている。また、新卒採用計画は、2020年度に-2.8%(金融機関を除く)と悪化したが、2021年度については-3.2%とさらに悪化幅が拡大しており、企業の雇用調整が新卒市場に大きく影響していることを裏付けた。
新型コロナウイルス問題で急速に悪化した需要が、思ったほど早期には戻らない、あるいは当初の水準まで容易に戻らない、との見方を強める中、企業は先行きの売り上げ見通しの下方修正に対応して、設備や雇用の調整を進め始めている。それがさらなる需要の抑制へと、スパイラル的につながっていく可能性があるだろう。景気は持ち直し傾向にあるとはいえ、コロナショックの後遺症は依然深い状況である。
低迷が続く物価見通し
供給過剰状態が長期化する中、物価の下落圧力も高まっている。日本銀行の推計によると、2020年4-6月期の需給ギャップは5.0%ポイント悪化したが、これは、半年から1年先の消費者物価を1.2%程度押し下げる計算となる。需給ギャップの大幅悪化は、GOTOトラベルによる宿泊費の下落や携帯料金の値下げの影響と相まって、しばらくの間、物価の押し下げに大きく寄与しよう。2022年頃までは、物価の下落基調は続くのではないか。
3年後、5年後の物価見通しでは、前回下方修正された分が戻り、物価見通しの悲観論が幾分緩和された。それでも水準はそれぞれ+0.7%、+0.9%と日本銀行の物価目標である2%どころか、その半分の1%の達成も中期的に難しいことを改めて示している。
当面の財政・金融政策には影響しない
今回の短観調査の結果が、当面の財政・金融政策に直接影響することはないだろう。引き続き厳しい経済状況が確認されたとはいえ、政府は今月8日に追加経済対策を閣議決定したばかりである。
一方日本銀行は、12月17・18日に金融政策決定会合を開く。追加経済対策で政府が民間金融機関の実質無利子・無担保融資の申請期限を2021年3月末まで延長することを決めたことに呼応して、2021年3月末までとしている日本銀行の資金供給策「特別プログラム」の6か月程度の延長を決める可能性が高いのではないか。
しかし、資産買入れの増額や政策金利の引き下げなどの追加金融緩和策が実施される可能性は低い。日本銀行は、追加緩和措置を見送りながら、この特別プログラムや当座預金制度の見直しなどを通じて、政府の政策を側面支援する姿勢を当面は続ける可能性が高い。
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