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米ゲーム販売店大手ゲームストップの株価などが乱高下した問題を巡り、米議会下院金融委員会は18日に公聴会を開いた。全く予想通りではあるが、問題の本質に迫らない議論に終始した感が強い。

公聴会には、ロビンフッド証券、HFT(高速取引)業者でもあるシタデル、ヘッジファドのメルビン・キャピタル、SNSレディットのそれぞれのCEO(最高経営責任者)が発言を求められた。議論の中心となったのは、ロビンフッドがゲームストップなどの取引を一時停止したことの是非、その背後でロビンフッドとヘッジファンドなどが結託していたのではないか、と言う点であった。それぞれが、自社には責任がないこと、不正行為はなかったこと、を強調したのである。

民主党議員は、金融市場で個人投資家が不利な立場に置かれているとの問題意識を強く持っており、取引の一時停止を巡る今回の問題に限らず、証券会社が顧客からの注文を機関投資家であるHFT業者などのマーケットメーカー(値付け業者)に回し、それと交換にリベート(報酬)を受取るPFOF(ペイメント・フォー・オーダー・フロー:payment for order flow)という仕組みや、ヘッジファンドの空売りなどの以前からの市場の慣行に質問が集中した(コラム「 米オンライン証券のビジネスモデルPFOFが改めて注目を集める 」、2021年2月9日)。

民主党のマロニー下院議員は、リスクを十分に伝えるなど、個人投資家に配慮する必要があると、ロビンフッドを批判した。また民主党のウォーターズ委員長は、「米国人の多くは、金融市場の制度が個人投資家に不利にできており、必ずウォールストリート(金融機関)が勝つ仕組みになっている、と考えている」、「ゲームストップ株の問題は、一部ヘッジファンドの略奪的な手法を浮き彫りにした」といった主旨の発言をし、個人投資家よりの姿勢をかなり鮮明にした。

米国の株式市場の制度、慣行に関わる従来から指摘されてきた問題が、今回改めて議論されるきっかけとなったことは良いことだ。しかし、格差問題への関心が強い民主党政権、民主党主導の議会のもとでは、批判の対象が証券会社や機関投資家にのみ向かいやすく、個人投資家が結託して株価操縦的な行為を行っていることへの対応が進まないことが懸念されるところだ。こうした点は、今回の公聴会でより明らかになったと言える。

個人投資家の行動にどう対応していくのかは難しい問題であるが、足もとでビットコインの価格が急騰していることにも表れているように、ゲームストップの株価高騰は一巡しても、個人投資家は標的を移しつつ、引き続きSNSなどを通じて結託した行動を続けている可能性が高い(コラム「 ロビンフッダーの次の標的はビットコインか 」、2021年2月18日)。それは金融市場のボラティリティを高め、最終的には市場機能を損ねてしまう可能性がある。そうなれば、個人投資家を含め、多くの国民に不利益をもたらすことになるだろう。いわゆる公益を損ねることになるのである。

下院では、この問題に関連して、3月にSNS運営業者を対象に公聴会を開く予定、と報じられている。個人投資家が結託して株価操縦的な行為をすることを抑えるには、SNS運営業者の協力が必要であり、その点からすれば問題解決に向けた第一歩とも見える。しかしそれでもなお、対応はかなり遅いと感じられる。

 

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。