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銀行間送金手数料は一律62円へ

各種報道によれば、銀行間の資金決済を担う「全銀ネット(全国銀行資金決済ネットワーク)」は、運営する「全銀システム(全国銀行データ通信システム)」で、今年10月にも銀行間送金にかかる手数料を現状の半分程度にまで引き下げる方針を固めた。

これは、政府からの働きかけを受けた措置だ。政府が2020年7月に閣議決定した「成長戦略実行計画」では、全銀システムについて「銀行間手数料の引き下げ」という改革案が示された。それに先立つ2020年4月には、公正取引委員会が、全銀システムの閉鎖性や高止まりする銀行間手数料を問題視する報告書を発表していた。

引き下げられるのは、送金元の銀行から送金先の銀行へ払われる「銀行間手数料」だ。これは、送金先の銀行がその作業にかかる処理コストを基に算出され、各銀行の個別交渉で決められる建前となっている。

しかし実際には、送金額が3万円未満は117円、3万円以上なら162円で、すべての銀行が40年以上にわたって横並びとなっていた。送金先の銀行の実際の処理コストは、140行の平均で1件当たり44円だという(日本経済新聞)。全銀ネットは、これを一律62円にする方向で調整している。大まかに言えば半減するのである。

新たな送金手数料は5年ごとに水準を見直す方向だという。また新制度では、従来の「銀行間手数料」に代わって、「内国為替制度運営費」という名目となる。

顧客の送金手数料も値下げへ

銀行の顧客が送金する場合には、送金元の銀行に手数料を支払う。これが例えば、200円~300円などだ。送金元の銀行は、顧客から徴収する送金手数料と、送金先に支払う送金手数料の差だけ、収入を得ることができる。現状では、送金先の銀行は、処理コストを上回る手数料を送金元の銀行から得て、送金元の銀行は、送金先の銀行に支払う手数料を上回る手数料を顧客から徴収している構図だ。顧客に大きな負担が及んでいることになる。

銀行間手数料が引き下げられれば、顧客が送金元の銀行に支払う送金手数料も引き下げられる可能性が高い。スマートフォン決済などを運営するフィンテック企業も銀行送金を利用して最終的な決済を行っていることから、この手数料引き下げの恩恵に浴することになる。

地域金融機関に打撃

手数料引き下げで最も打撃を受けるのは、地域金融機関だろう。地域金融機関は、都市部の大手行などからの送金の受け手になるケースが多いためである。さらに、新制度の導入に合わせて、これまで銀行間の手数料がかからなかった公金の送金については、2024年10月をめどに新たに手数料を課すことが検討されており、これも地方銀行の収益を圧迫することになる。地方銀行は公金の支払いの事務を手掛ける指定金融機関になっている例が多く、公金への手数料導入はコスト増加につながる恐れがある。このため、一定の経過措置が設けられる可能性があるという。

送金手数料の引き下げ以外にも、2022年度中には金融機関でないフィンテック企業に全銀システムが開放される方向で検討が進められている。また、3メガバンクやりそな銀行などは、少額決済専用のインフラ「ことら」を新設し、2022年度早期の稼働を目指すとしている(コラム「 銀行の決済業務に大きな変革の波 」、2021年1月22日)。

決済サービスからの収入は、銀行にとっては今まで安定した収入源であった。しかし、このような銀行決済システムの大きな改革の中で、決済サービス収入はさらなる減少を余儀なくされるだろう。それは、銀行に一段のビジネスモデルの見直しを迫るものとなっている。

 

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。