中国経済圏内で人民元の利用が広がる
バイデン政権のもとでも、前トランプ政権と同様に、米国の対中強硬姿勢は変わりそうもない。そのもとで、中国は先進国市場から徐々に排除されていくことに備え、一帯一路参加国をベースに独自の中国経済圏の構築に動いていくことになるだろう。そして、中国が一帯一路参加国を中心とする新興国に対して迅速かつ低コストで決済ができる便利なデジタル人民元を供給していけば、その中国経済圏内で人民元建て決済比率は急速に高まっていく可能性があるのではないか。
国際通貨基金(IMF)の推定では、2020年時点で米国の名目GDPは世界の24.6%を占める。その米国の通貨ドルが、世界の中では事実上の基軸通貨となり、貿易その他の国際決済で支配的な役割を果たしているのが現状だ。
2019年9月時点では、外国為替市場で取引される通貨でドルの構成比は44.2%である。外国為替市場では、基本的には2つの通貨を交換することから、ドルが一方で関わっている取引(ドルとユールの交換、ドルと円の交換など)の構成比は、この44.2%の2倍程度と考えて良いのではないか。まさに、ドルは国際資金取引を支配している通貨といえる。
経済規模(GDP)では世界の24.6%を占める米国の通貨ドルが、外国為替市場では44.2%と、その1.8倍の構成比となっている。この倍率を、基軸通貨の影響力を示すものと考えてみよう。
人民元の通貨構成比は将来18%まで高まる計算も
ところで、中国の一帯一路構想に参加している国の範囲は必ずしも明確ではないが、中国商務部や外交部が示した資料では、2016年末時点で中国を除いて64か国とされている。これは世界のGDPの約21%であり、これに約10%の中国を加えると約31%となる。この経済圏の中で中国のGDPの構成比は約32%であるが、上記の基軸通貨の影響力の係数1.8倍を掛けると、経済圏内での外国為替市場での人民元の構成比は約57%となる計算だ。さらに、世界全体の中での構成比を計算すると約18%となる。
一帯一路構想に参加している国の貿易決済など外国為替取引は、中国を含めてドル建てで行われている比率が現時点では相当高いと見られる。それが、上記のように経済圏内で約58%まで人民元建てに代わり、その結果、世界の外国為替市場での人民元の構成比は、2019年9月時点での2.2%から約18%に約16%ポイント上昇する。その分ドルの利用が減ると考えると、それは世界の外国為替市場での44.2%の構成比から約28%まで低下する計算となる。
この計算では、世界の外国為替市場での人民元の構成比は、ドルと逆転はしないまでも、12%ポイントの差までかなり接近することになる。ドルの影響力は相当に低下してしまうのである。
実際に、このような変化が起こるまでには時間を要するだろうが、デジタル人民元が一帯一路構想参加国に広がることで、人民元の国際化が着実に進んでいけば、いずれはドルと人民元の勢力図にはそのような大きな変化が生じると、外国為替市場は考えるだろう。その瞬間、大幅なドル安が生じるのではないか。
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