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ファミリーオフィスの巨額損失問題が示すノンバンクの金融リスク

日本銀行は、4月20日に公表した半期に一度の金融システムレポートで、海外での投資ファンドなど、銀行以外の金融機関であるノンバンク(シャドーバンキング)の動向が日本の金融機関、金融システムに与える影響についての分析を示した。

コロナショックを受けて昨年3月に世界の金融市場が動揺した際に、ヘッジファンド、投信、ETF、MMFなどのノンバンクが、保有している高リスク資産を一気に売却したことがその引き金となった、とされる。それを受けて、世界の金融当局は、ノンバンクへの規制強化を検討し始めている。

さらに今年3月には、米国でファミリーオフィス(資産家一族の資産運用を目的に設立された組織)の巨額損失問題が起こった。そのため、日本銀行もノンバンクの分析を、今回の金融システムレポートの目玉の一つとしたのである。以下では、この日銀の分析をみよう。

金融部門全体の資産規模に占めるノンバンクの比率は、日本では他の先進国と比べて小さめだ。その分、民間銀行、中央銀行の比率が高いのが特徴である。日本では、銀行など国内金融機関が投資信託等の運用を拡大する中、投資ファンド(投資信託)への資金流入が近年は増加している。その結果、銀行などとノンバンクとの関係は、強まる方向にある。他方、米国では、家計が投資ファンドに対する最大の資金の出し手となっている。

日米ノンバンクの投資対象の重複が強まる

昨年3月のように、ハイイールド債や一部の証券化商品といった高リスク資産の価格が米国で下落すると、それを保有している米国のオープン型投資ファンドなどのノンバンクの運用成績が悪化し、顧客の解約が相次ぐ。それに応じるためにノンバンクは、高リスク資産を売却して換金を急ぐのである。それによって、高リスク資産の価格下落はさらに加速する。

日本ではノンバンクのプレゼンスは小さいが、投資信託などが投資対象としている金融商品は、米国のノンバンクとの重複を強めている。日本の投資信託が海外のリスク性資産への投資を拡大させる一方、米国のノンバンクは日本株などへの投資を増やしているためだ。そのため、上記のようなプロセスで米国のノンバンクが保有する高リスク資産の価格が下落し、運用成績が悪化すると、日本の投資信託などでも連動して運用成績が悪化する傾向が強まっている。そして、それは、投資信託に資金を供給する国内銀行などに損失を発生させるのである。

米国での高リスクの投資行動は日本の金融リスクにも

高リスク資産への投資や、高いレバレッジでのリスクの高い投資行動が世界で最も顕著であるのは、米国のヘッジファンド、ミューチュアルファンド、ETFといったノンバンクだろう。コロナショックを受けた積極的な金融緩和策によって、米国のノンバンクの間では、昨年3月の金融市場の動揺を受けても、そうした投資行動は解消されていないばかりか、むしろ強まっている可能性がある。その一端が表れたのが、ファミリーオフィスの巨額損失問題と言える。また、米国の個人投資家も、ミューチュアルファンド、ETFなどを通じて、自身の資産を大きなリスクにさらしている。

日本では、個人はそうしたリスクの高い投資行動をとっていないが、上記のような構図の中で、国内銀行は、米国のノンバンクが抱えるリスクを事実上負っている面もある。

米国では、ファミリーオフィスの巨額損失問題以外でも、個人投資家がSNS上で結託して株価を押し上げたゲームストップ問題、SPAC(特別買収目的会社)の株価高騰、ビットコインの価格急騰、デジタル資産のNFT(非代替性トークン)ブームなど、リスクの高い投資行動が年初来目立っている。それらは、決して日本にとって無縁の存在ではなく、日本の金融システムのリスクとして理解しておく必要がある。

 

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。