3回目の緊急事態宣言による経済損失は3.2兆円
政府は緊急事態宣言を、沖縄県を除く9都道府県については予定通りに6月20日で解除する。他方、医療ひっ迫傾向が顕著な沖縄県の宣言は、7月11日まで延長される。また、東京、大阪など7都道府県については、同じく7月11日まで、まん延防止等重点措置が発令される。宣言解除後も飲食店への午後8時までの時短要請は継続されるが、感染対策を実施している店舗では、酒類の提供を午後7時まで可能とする。
東京都では4月25日以来の緊急事態宣言がほぼ2か月ぶりに解除されるが、新規感染者数は既に下げ止まりから再拡大の兆しを見せている。7月の東京オリンピック・パラリンピック大会開催の影響なども考慮すれば、第4回の緊急事態宣言発令の可能性も視野に入る状況だ。
7月11日までの沖縄県での緊急事態宣言延長の影響も加えると、4月25日から始まった3回目の緊急事態宣言による経済損失は、3.2兆円に及ぶ計算となる。これは、名目GDPを1年間で0.58%減少させ、失業者数を12.7万人増加させる(図表1)。
今回の緊急事態宣言による経済損失の試算値は、第1回の6.4兆円、第2回の6.3兆円と比べると半分程度である(図表2)。宣言の期間については過去2回と同程度であるが、対象区域が狭かったことで、経済損失は過去2回よりは小さくなった。
それでも、今回の緊急事態宣言は4-6月期の実質GDP成長率を年率で9%程度押し下げ、同期の成長率は1-3月期に続き2四半期連続のマイナスとなる可能性は高いと考えられる。
(図表1)第3回緊急事態宣言による経済損失
(図表2)3回の緊急事態宣言による経済損失の比較
慎重な判断が求められる東京大会の観客受け入れ方針
感染対策の観点から、次の大きな課題となるのが東京オリンピック・パラリンピック大会の開催である。
政府は東京大会を予定通りに開催する方針だ。さらに、共同通信によれば、政府は東京大会の観客数を上限1万人とする方向で検討しているとされる。他方、新型コロナウイルス感染症対策分科会の専門家らは、東京大会に伴う感染拡大リスクを強く警戒している。20日までにこれに関する提言をまとめる。NHKによれば、この提言では、感染拡大を防ぐ観点から無観客での開催が最もリスクが少ない、との意見が盛り込まれる見通しだ。
また、国立感染症研究所などは、東京都で20日に緊急事態宣言が解除された場合に、変異ウイルスの影響が小さいと仮定しても、東京大会の開催中に宣言の再発令が必要になるとしている。試算によれば、東京大会を観客入りで開催する場合、無観客開催と比べて8月中の累積の新規感染者数は数千人増えるという。
経済効果の観点からは、観客を入れるかどうかで大きな違いは生じない。筆者は東京大会開催の経済効果を1兆8,108億円と推定しているが(コラム「 東京オリンピック・パラリンピック中止の経済損失1兆8千億円、無観客開催では損失1,470億円 」、2021年5月25日)、観客数を4分の1にする場合に失われる経済効果の推定値は1,101億円、無観客の場合には1,468億円と、開催による経済効果の10分の1以下であり、それほど大きなものではない(図表3)。
他方で、観客を多く受け入れることが感染再拡大のリスクを高め、それが4回目の緊急事態宣言につながる場合、既にみた3回の緊急事態宣言の経済損失の例に基づけば、3兆円から6兆円規模の経済損失が生じる。観客数を制限した場合に失われる経済効果と比べて、格段に大きくなるのである。
こうした経済的側面も踏まえ、政府は、無観客開催も選択肢に入れて、感染リスク抑制の観点を最優先課題に据えて、観客受け入れの方針を慎重に判断することが求められる。
(図表3)東京オリンピック・パラリンピックに関わる経済効果の損失
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