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東京五輪・パラリンピック組織委員会、政府、東京都、国際オリンピック委員会、国際パラリンピック委員会の代表者は21日に、観客数の受け入れに関して5者会談を行った。そこで、すべての会場で収容定数の50%以内で1万人を上限とすることを決定した。

都内27の五輪競技会場の収容人数の合計は34万8,100人となる(会場と収容人数は藤井・仲田・岡本「五輪観客数計算」 による)。ここに新たに決定された観客数の受け入れルールを当てはめて計算すると、収容定数に対して、実際に受け入れる数の比率は39.1%となる。ちなみに、収容定数が2万人を上回り、1万人の上限ルールが適用されるのは、都内では新国立競技場と東京スタジアム(味の素スタジアム)の2か所である。

さらに、この数字を東京五輪・パラリンピック全体に当てはめると、観客を完全に受け入れるケースと比べて、経済効果は894億円減少する計算となる(コラム「 東京オリンピック・パラリンピック中止の経済損失1兆8千億円、無観客開催では損失1,470億円 」、2021年5月25日)。その結果、大会開催の経済効果は、1兆8,108億円から1兆7,214億円に減少する(図表)。しかしその減少率はわずか4.9%であり、経済効果が大きく損なわれる訳ではない。

今回の決定では、五輪開催について感染リスクが最も低い無観客開催が望ましいとする政府コロナ感染症対策分科会の提言は採用されなかった。しかし、菅首相は、大会期間中に緊急事態宣言が発令された場合には、無観客も辞さない、と明言している。大会全体あるいは部分的に、無観客開催となる可能性も十分にあるだろう。

無観客のケースでは、観客を完全に受け入れるケースと比べて経済効果は1,468億円減少する計算となる(図表)。それでも、その減少率は8.1%であり、やはり経済効果が大きく損なわれる訳ではない。

観客制限の決定に際しては、その経済効果を考慮する必要性は高くないだろう。あくまでも感染リスク対策を最優先し、環境変化に応じて柔軟かつ適切な見直しが望まれるところだ。

(図表)東京オリンピック・パラリンピック大会の観客制限で減少する経済効果

 

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。