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再生可能エネルギーによる発電比率の大幅引き上げを検討

政府は次期エネルギー基本計画の策定作業を進めている。エネルギー基本計画は、中長期的なエネルギー政策の方向性を示す計画で、おおむね3年ごとに見直されてきた。前回の見直しは2018年だが、菅政権のもとで、2050年度カーボンニュートラル実現、2030年度までにCO₂排出量46%削減、という意欲的な目標が新たに示されたことから、エネルギー基本計画の大幅修正が必要となる。当初は6月中にも新計画が固まるとされていたが、実際には作業はかなり遅れているようだ。

11月に英国グラスゴーで開かれるCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)が事実上の期限となることから、今夏中には次期エネルギー基本計画が示されるだろう。

注目される総電力発電量の電源構成(エネルギーミックス)について、現在の計画では、2030年度の再生可能エネルギーによる発電比率が全体の22%~24%、原子力発電による発電比率が全体の20%~22%である。CO₂を排出しない双方の発電比率の合計は4割強から5割弱である。

しかしこれでは、2030年度までにCO₂排出量46%削減という目標は達成できないことから、政府は原子力発電による発電比率を20%~22%で据え置く一方、再生可能エネルギーによる発電比率を30%台後半まで引き上げる方向で検討しているとされる。その結果、両者の比率は6割程度まで高まる。

ただし、再生可能エネルギーによる発電比率目標を10%以上引き上げるためには、新たに具体策をエネルギー基本計画に盛り込んでいくことが求められる。10年足らず先の近未来の2030年度目標では、新たな技術開発に助けられることを前提に再生可能エネルギーによる発電拡大の姿を描くことはできない。そのため、各種投資を促すような具体的政策などを詳細に示すことが求められる。

原発のリプレース(建て替え)を推進する方針は明記されない方向

問題なのは再生可能エネルギーによる発電だけではない。据え置かれる方向の原子力発電による発電比率20%~22%の目標についても、実現は見えていない。原子力発電所は、2011年の福島原発事故を受けて24基が廃炉され、60基(含む建設中3基)が33基まで減少した。そのうち、安全基準の厳格化で再稼働されたのは、10年以上経過しても現時点でもまだ10基にとどまっている。2030年度に原子力発電所で総発電量の22~24%を賄うためには、30基程度の再稼働が必要になる計算だ。原子力発電の安全性に対する国民の不安が強く残る中、再稼働を加速させていくことは簡単ではない。

さらに大きな障害となるのは原子力発電所の高齢化である。2011年の法改正で、原発の運転期間は原則40年と定められた。2030年度末時点では、運転から40年未満の原発は21基(含む建設中)まで減少する。仮にこのすべてが稼働しても、2割の目標の達成には9基足りない計算となる。

他方、特例では1回に限り60年までの延長が認められている。すべての原発が60年まで運転期間を延長しても、新設がない場合には2069年には原発はゼロになる。仮に、2030年度までにCO₂排出量46%削減、2050年度カーボンニュートラル達成、という目標が一時的に達成できても、それ以降のCO₂排出量を増やさないためには、脱原発を定着させなければならない。

30日に日本経済新聞などが報じたところでは、政府は、原発のリプレース(建て替え)を推進する方針を明記しない方向で調整を進めていることが明らかになった。2011年の東京電力福島第1原発事故以前は、計画的な新増設やリプレースを進めると明記されていた。しかし事故以降に改定された基本計画からはそうした文言が消え、2018年に策定された現行の基本計画でも言及されていない。

原子力規制委員会が再稼働を許可した東京電力の柏崎刈羽原子力発電所で、今年4月にテロ対策の不備が明らかになったことなどを踏まえ、「原発の信頼回復がなお途上である」ことが、方針が明記されない主な理由とされ、3年後の計画改定時に改めて検討されるという。

原発の運転期間延長が新たな議論に

これを受けて、原発に関する議論は、新増設やリプレースを進めるか否か、から原発の運転期間延長を最大限続けるか否か、に移りつつあるように思われる。今後は、法律で定められている最大60年の稼働期間を延長することの議論が高まっていくだろう。稼働期間の延長を支持する向きは、米国の事例をしばしば挙げる。米国では、80年までの延長が許可された原発が6基にも上っているのだ。米国以外でも、原発の長期運転の傾向は世界的に強まっている。

しかし日本国内では、新増設やリプレースに加えて、原発の運転期間延長による経年劣化のリスクについても、国民の間での不安は根強いとみられる。他国と比べて再生可能エネルギーによる発電コストが高いこと、2011年の原発事故以来、原発の安全性に対する国民の不安が強いこと、という脱炭素の実現に向けた2つの大きな逆風が日本にはある。こうしたもとで策定される新エネルギー基本計画については、その実現可能性について厳しい目が内外から向けられる可能性が高そうだ。

(参考資料)
「『原発建て替え』盛らず 脱炭素の道筋不透明に」、2021年6月30日、日本経済新聞

 

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。