各国・各機関の取り組みを調整する必要
7月9~10日にイタリア・ベネチアで開かれた20か国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議には、金融安定理事会(FSB)による気候変動関連の金融リスクに対処する取り組みを調整するロードマップ(工程表)が報告された。
FSBには、主要25か国・地域の中央銀行、金融監督当局、財務省、主要な基準策定主体、国際通貨基金(IMF)、世界銀行、国際決済銀行(BIS)、経済協力開発機構(OECD)等の代表が参加しており、そこでは金融システムの脆弱性への対応や金融システムの安定を担う当局間の協調の促進に向けた活動などが行われている。
気候変動による金融リスクに対処するために、世界では多くの取り組みがなされている。しかし、それぞれの取り組みは別々に行われている面もあり、基準などは必ずしも統一されていない。
例えば、企業が気候変動リスクに関する情報を積極的に開示しても、基準が統一されていないことから、投資家がそれらを横比較して投資判断につなげることが難しい、という面もある。また、環境配慮を装った開示をする企業も出てきており、開示内容を正確に評価するためには共通の基準が求められるようになっているのである。
FSBがG20と連携して気候変動の開示基準づくりを進めてきたのは、世界中で行われている取り組みを調整し、共通の基準を作り、また共通のロードマップを提示して取り組みの時間軸を揃えていく狙いがある。
ロードマップは4つの分野に焦点
気候変動の金融リスクの評価と対処を示すFSBのロードマップは、4つの分野に焦点が当てられている。第1は企業レベルの情報開示(firm-level disclosures)である。それは、個別企業や投資家のレベルで気候変動関連の金融リスクを評価、管理するためのベースづくりとなる。第2はデータだ。それぞれ整合的な方法と情報開示を用いて、気候変動に関する脆弱性を診断する原材料を提供することに用いることができる。第3は脆弱性分析(vulnerabilities analysis)だ。それは、規制監督の枠組みとツールを作り、適用するベースを提供する。第4は、規制監督の方法とツール(regulatory and supervisory practices and tools)である。これらによって当局者は、金融の安定性に対する特定の気候変動リスクに対処する効果的なやり方が可能となる。
報告書では、市場の分断化を防ぐことが強調されている。同じリスクの金融商品で、気候変動リスクの評価が異なることで価格に差異が出ると、それは市場の歪み、非効率につながるためだ。
短期間で気候変動リスクに対する金融面での耐性を高める
各国企業は、気候変動リスクの情報開示を進めているが、そのきっかけとなったのは、FSBが立ち上げた気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)が2017年6月に公表した報告書だ。それは、企業等に対して気候変動関連リスクに関するガバナンス、戦略、リスク管理、指標・目標を開示することを求めている。そして、FSBは、それぞれの情報開示の項目について、内容をより詳しく定める方針だ。
例えば、情報開示手法の不統一を巡っては、「国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)」のもとで、国際的な投資家に一貫した情報を提供する取り組みが進められている。
FSBが統一基準作りを進めても、すべての国が同じ基準を受け入れる訳ではない。例えば、欧州連合(EU)は、企業に対し、気候変動が業績に及ぼす影響だけでなく、事業活動が環境に及ぼす影響についても情報を開示するよう求める方針であるが、そうした厳しい方針を受け入れられない国も少なくないだろう。
それでも、FSBが気候変動関連の金融リスクに対処する各国の取り組みを調整し、統一基準作りを進めることの意義は大きい。ロードマップ(工程表)を含むこの報告書は、各国での企業、金融機関、金融当局の取り組みを強く刺激し、短期間で気候変動リスクに対する金融面での耐性を高めることに役立つことは疑いのない点だ。
(参考資料)
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FSB Roadmap for Addressing Climate-Related Financial Risks
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「FSB、気候変動リスクのルール調整に向け工程表を公表」、2021年7月7日、ロイター通信
「気候変動リスク、開示基準議論へ G20財務相会議、開幕」、2021年7月10日、朝日新聞
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