中国が暗号資産のマイニング(採掘)を禁止
中国当局は、以前から暗号資産(仮想通貨)に対し厳しい姿勢で臨んできた。国内の暗号資産取引所をいち早く閉鎖させたうえ、取引も規制してきた。そして今年6月中旬には、当局は中国工商銀行や農業銀行、建設銀行など国営大手5行やアリペイなどオンライン決済大手の関係者を召集し、ビットコインなど仮想通貨の取引や使用を避けるよう指示した。
予想外だったのは、当局が暗号資産のマイニング(採掘)を禁止する方針を示したことだ。よく知られているように、中国はビットコインマイニングの中心地となっていた。中国が暗号資産を規制してきたのは、それが、マネーロンダリング(資金洗浄)など犯罪に使われるリスクがあることに加え、来年にも発行される中銀デジタル通貨のデジタル人民元と競合し、その普及を妨げてしまう可能性があるからだろう。そして、今回マイニングまで禁止する方針となったのは、それが大量の電力を消費し、環境に負荷を与えることが理由の一つだろう。
ビットコインのマイナーは、ビットコインの取引を処理することで手数料を得ている。それと引き換えに、コンピューターで乱数を生成し、正しい乱数を見つけて新しいビットコインを報酬として得る、一種のくじ引きに参加するチャンスも与えられる。ビットコインの価格が上昇している際にビットコインを採掘すれば、大きな利益を得られる。
世界のマイニングの4分の3が中国に集中していた時期も
このマイニングには、10年前はパソコンさえあれば誰でもできたが、今や多数のコンピューターと大量の電力を使用する大規模な産業と化している。乱数を見つける確率を上げるには、稼働するマシンの数を増やす必要があることから、そこに膨大な電力が使用されるようになっていった。ビットコインのマイニングは今年4月のピーク時には、1日当たり7,000万ドル以上の収入をもたらしていたという。そして、英ケンブリッジ大学の指標によると、ビットコインマイニングの年間電力消費量は約130テラワット時と、アルゼンチン一国の電力消費量を上回る。
そこで、比較的安価で電力が利用できる中国に、マイナーが集まることになったのである。特に、内モンゴル自治区や新疆ウイグル自治区などの石炭が豊富な地域や、四川省や雲南省などの水力発電所がある地域である。
英ケンブリッジ大によると、中国がビットコインを生み出す能力は2019年9月時点で世界全体の75.5%を占めていた。その後比率は低下したが、2021年4月でもなお46.0%と半分近くあったという。
中国からの「マイニング大移動」
中国国内での、暗号資産のマイニングが禁じられることは、マイナーにとってまさに寝耳に水だった。内モンゴル、青海省、四川省などでマイニング業者の廃業が相次いでいるとされる。それでも、海外の大手マイナーらは、中国からコンピューターを他国に移転させ、ビジネスを続けようとしている。これは、「マイニング大移動」とも呼ばれている。主な移転先は、化石燃料が豊富な隣国カザフスタンや米国、カナダなどとされる。
ただし、マイニングに用いられるコンピューターは揺れると損傷しやすいため、慎重に輸送する必要がある。また、原油価格高騰や人件費高騰によって輸送コストも高まっている。そこで新品のコンピューター1台を海外に運び出す際には、約1万2,000ドル(約132万円)かかる場合もあるという。そうした高い移転コストを支払っても、中国からコンピューターを移転して、マイニングを続ける業者が多いのである。
ビットコインの場合、マイニングで得られるコインの数は次第に減っていく仕組みとなっているため、将来的にはマイニングのビジネスは成り立たなくなる。しかし、現状ではなお高い収益を得られるとの見通しがあるのだろう。
一方、テスラのマスクCEO(最高経営責任者)の発言をきっかけに、ビットコインは環境負荷が高いという悪いイメージが広まってしまった感もある。しかし、中国からの「マイニング大移動」をきっかけに、再生可能エネルギーを利用したマイニングに転換されていけば、イメージの改善が図られる可能性もあるだろう。
いずれにせよ、今回の中国でのマイニング禁止が、ビットコイン市場に決定的な打撃を与えることはなさそうだ。
(参考資料)
"Cryptocurrency Companies Are Leaving China in 'Great Mining Migration'", Wall Street Journal, August 24, 2021
「中国ビットコイン、規制強化 デジタル人民元に軸足、採掘禁止令」、2021年8月13日、産経新聞
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