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金融市場はプラスに反応

3日の党臨時役員会で、菅首相は今月29日投開票の自民党総裁選に出馬しない方針を表明した。コロナ対策に対する国民の不満を背景に菅内閣への支持率低下に歯止めがかからないなか、党内では菅首相の下で衆院選を戦うのは厳しいとの声が高まっていた。このような情勢では、各派閥の支持を取り付けて、自民党総裁選で勝利するのは難しいと菅首相は判断したとみられる。

金融市場では円安、株高が進んでいる。リスクテイクの動きが強まっているのである。菅首相の辞任によって、より有効なコロナ対策がとられるとの期待が背景にあるのだろう。さらに、首相が代わることで、衆院選挙で自民党が大敗するリスクが下がったとの観測もあるのではないか。それは政治の安定につながり、経済にもプラスとの市場の解釈につながるだろう。

カーボンニュートラルが最大のレガシーか

昨年9月に発足した菅内閣は、1年強の短期政権に終わることになる。菅首相は、コロナ対策に専念するために総裁選には出馬しないと発言したとされる。辞め際は潔かったと国民は評価するかもしれない。

菅首相が当初打ち出していた縦割り行政の打破、等の改革はあまり進まず、コロナ対策に翻弄された1年となってしまったが、2050年カーボンニュートラル目標などの地球温暖化対策を積極化させたことは、菅政権の成果、レガシーとして残るだろう。デジタル庁の発足も成果の一つだ。

マクロ政策では脱安倍カラーが一段と進む

次期自民党総裁については、現時点では岸田氏が有力であるが(コラム「 コロナ対策『岸田4本柱』の政策構想 」2021年9月3日)、まだ不確定要素は大きい。菅首相が安倍政権の後継を自任していたのに対して、次に誰が政権を担おうとも、安倍カラーが一段と弱まる可能性が高い点が重要である。積極財政、積極金融緩和という傾向がやや弱まり、より慎重で健全なマクロ政策運営が行われるようになることを期待したい。

安倍カラーが一段と弱まることが見込まれる次期政権の下では、正常化に向けて日本銀行の自由度も高まるのではないか。黒田総裁の任期が切れる2023年4月以降、日本銀行は正常化を模索していくと予想されるが、安倍政権、菅政権のもとよりも、次期政権のもとでは、日銀は正常化を進めやすいのではないか。それはいずれ円高リスクを受け止められる可能性もあるが、長い目で見れば、金融市場の安定に寄与するだろう。

 

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。