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中国人民銀行(中央銀行)は9月24日に、仮想通貨(暗号資産)の関連事業を全面禁止すると発表した。これを受けて、代表的な仮想通貨ビットコインの価格は急落した。

中国政府による仮想通貨(暗号資産)への規制強化は2018年から段階的に進められてきており、今年5月には金融機関に対して仮想通貨の関連業務を禁じる通知が出されている。今回の措置もそうした一連の流れの延長線上にあると言える。

ただし足もとでの一段の規制強化には、習近平国家主席が掲げる「共同富裕」の理念のもとに進められている企業への統制強化、恒大の経営危機問題を受けた金融の安定確保、来年に予定されているデジタル人民元発行に向けた環境整備、等といった新たな施策も影響しているのではないか。

今回の規制措置で、仮想通貨(暗号資産)の決済や取引情報の提供など関連するサービスが全面的に禁止される。これに反すると、違法な金融活動として刑事責任が追及されるようになる。当局は既に国内での仮想通貨(暗号資産)取引所を閉鎖させ、国内での取引を禁じていた。しかし、利用者が国外の取引所を使うことは可能だったとみられる。そこで、中国国外の取引所がインターネットを通じて中国に住む人に暗号資産のサービスを提供することも禁じ、いわば抜け穴も完全に塞ぐことにしたのである。

中国人民銀行は仮想通貨(暗号資産)について、「秩序を乱し、賭博や詐欺、マネーロンダリングなどの犯罪活動を引き起こしている」と指摘している。仮想通貨(暗号資産)の取引で、個人が巨額の利益を得ること、逆に巨額の損失を被ることを、政府はともに警戒しているのだろう。

さらに、中国が世界シェアの約半数を占めるとされる「採掘(マイニング)」についても、国家発展改革委員会は採掘業者への取り締まりを強化する通知を出している。これも、従来から進めてきている規制強化の流れの延長である。

中国政府は、デジタル形式で直接価値が移転できるという意味でのデジタル通貨は、デジタル人民元以外は認めない方針だ。それを通じて、国内での金融の安定確保、国際資金フローの管理強化、個人データの統制を狙っている。

今回の措置で、今まで段階的に進めてきた仮想通貨(暗号資産)への規制強化は、いよいよ仕上げの段階に近付いた印象である。このことは、デジタル人民元の発行時期が近いことの証左でもあるだろう。

(参考資料)
「中国、暗号資産を全面禁止 国外との取引も「違法」」、2021年9月25日、朝日新聞

 

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。