中国政府の地球温暖化対策が電力不足を生む
中国では電力不足問題が深刻化しており、経済活動の逆風となっている。中国政府は不動産大手の恒大の経営危機への対応と同時に、この問題への対応を進める必要がある。この2つの問題は、先行きの中国経済の減速につながる可能性が高く、また世界経済にも悪影響を及ぼすだろう。この2つの問題に共通しているのは、企業活動への中国政府の統制強化が、思わぬ形で混乱を引き起こしてしまった点だ。
電力制限は既に8月下旬に一部の省で始まっていたが、北東部の住宅で突然停電が起こるようになった9月半ば頃から、全国へと広がっていった。製造業が集積する地域の工場では、稼働時間の短縮か1週間の閉鎖を命じられたところもあった。IHSマークイットによると、9月28日時点で、省級行政区34か所のうち22か所で電力供給に制限措置が導入されたという。電力制限は半導体関連製品メーカーなどでも実施されており、自動車メーカーの半導体不足問題を一層深刻なものとしている。
深刻な電力不足問題の背景にあるのは、中国政府の地球温暖化対策の推進と石炭不足・石炭価格の高騰の2つである。
習近平国家主席は2020年9月に、2030年までに炭素排出量を減少に転じさせる目標を表明した。これを受けて、一部の省では、電力制限による厳しいエネ効率目標が導入されたのである。さらに国家発展改革委員会(NDRC)は8月に公表した報告書で、エネ効率要件を満たしていない省を特定し、9月半ばには、発改委に名指しされた省が電力制限でエネ消費の大きい産業を標的にするようになったのである。このように、深刻な電力不足は、政策によって人為的にもたらされた側面が強い。
統制強化のリスクが浮上
もう一つの問題は、石炭不足とその価格の高騰だ。中国では、危険で老朽化した炭鉱業界の状況を改善するため政府が鉱山の閉鎖を進めたことによって、供給が伸び悩み、石炭価格が高騰していた。
今年3月から8月までの国内石炭生産量は前年同期比で平均1.5%縮小した。そして国内の石炭供給がひっ迫しているところに、豪州やモンゴルからの輸入を政策として制限したことで事態が悪化したのである。これによって石炭価格は高騰した。中国商務省によると、発電用の石炭(一般炭)価格はこの半年に29%値上がりした。
他方で、中国の電力販売価格には規制が残っていることから、ここに逆ザヤが生まれ、収益悪化を恐れる発電所は、損失を避けるため生産を減らしたのである。
このように、深刻な電力不足問題は、政府の統制強化という政策が生み出した側面が強い。恒大経営危機の問題と同様である。「共同富裕」を掲げる習近平体制のもとで、統制強化はさらに進められるだろうが、今回の問題を受けて、スピードを緩めるといった形で多少なりとも軌道修正はなされるかもしれない。
海外は、中国政府の統制強化に伴う中国経済や中国投資のリスクを改めて認識させられたのではないか。他方、この問題をきっかけに、中国での地球温暖化対策が見直されることを、先進各国は恐れるのではないか。
(参考資料)
"China’s Power Shortfalls Begin to Ripple Around the World", Wall Street Journal, October 2, 2021
"China’s Coal and Gas Woes Might Test Beijing’s Principles", Wall Street Journal, September 30, 2021
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