EU発行の過去最大規模のグリーンボンドに強い需要
欧州連合(EU)は12日に、環境問題対策に使い道を限定した15年物のグリーンボンド(環境債)を初めて発行し、120億ユーロ(約1兆5,700億円)を調達した。発行額の11倍以上の1,350億ユーロの応札があり、グリーン資産に対する投資家の強い需要が裏付けられた。発行額、応札額ともに、英国が今年9月に初めて発行したグリーンボンド(発行額は100億ポンド、約1兆5,400億円)の記録を上回り、過去最大規模となった。
12日に発行されたこのグリーンボンドの利回りは、0.453%で決定している。欧州委で予算を担当するハーン欧州委員は、利回りが同条件の債券より低くなるプレミアム、いわゆる「グリーニアム」は2.5ベーシスポイント(bp)と推定しているという。
EUが世界最大のグリーンボンド発行体に
これはコロナ復興基金に基づいて発行されたもので、調達した資金は復興基金の枠組みに沿って加盟国に支給され、エネルギー効率、クリーンエネルギー、気候変動への対応など、9つの分野に投じられる予定だ。加盟国が環境問題対策とは異なる目的でこの資金を利用しないよう、EUが目を光らせる。
復興基金に関連して、EUは2021年中に800億ユーロを調達し、2026年までに復興基金の全額である7,500億ユーロを調達する予定だ。そのうちグリーンボンドについては、2026年までに最大で2,500億ユーロ発行する予定である。復興債全体の約3分の1がグリーンボンドとなる。その場合、これまで世界最大のグリーンボンド発行体だったフランスを抜くことになり、EUが世界最大のグリーンボンド発行体となる可能性がある。
EUグリーンボンドは世界中の資金を集める存在
EUは2030年に温室効果ガスの排出量を1990年比で55%減らす目標を掲げている。また今年7月に発表された包括的な環境政策では、2035年にハイブリッド車(HV)を含めたガソリン車やディーゼル車の新車販売を禁止、世界に先駆け「炭素国境調整措置(国境炭素税)」を導入すること、などが示された。グリーンボンドで調達された資金は、それらの目標を実現することを助けるだろう。
EU加盟国の間でも、グリーンボンドの発行がにわかに増えてきた。既にみたように英国は9月に100億ポンドのグリーンボンドを初めて起債した。フランスやドイツなどもグリーンボンドを発行している。グリーンボンドは企業の発行が先行していたが、足元では国や国際機関による発行も急速に増えてきたのである。
EUのグリーンボンドは、その信用力の高さ、流動性の高さから、世界中の資金を集める存在となるだろう。米国債に次ぐ地位を得て、ユーロの地位向上、また金融センターとしてのEUの地位向上にも貢献する存在となるかもしれない。
(参考資料)
「EU初の環境債1・5兆円―世界最大規模、復興財源に」、2021年10月13日、共同通信ニュース
「EU初の15年物環境債、利回り0.453% 11倍以上の需要集める」、2021年10月12日、ロイター通信ニュース
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。