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所得制限付き子ども給付は個人消費を6,630億円押し上げる

10日に自民党の岸田首相と公明党の山口代表が会談し、コロナ経済対策の18歳以下の子供への給付を巡って議論した。報道によれば、18歳以下の子供に10万円を給付する一方、受け取る世帯の所得が年間960万円以下であることを条件とする所得制限で合意したとされる。年内に5万円の現金による先行給付を開始し、来春までに子育て関連に使える5万円相当のクーポンを支給する見通しだ。

それ以外では、生活に困窮している住民税非課税世帯に現金10万円を給付すること、マイナンバーカードの保有者、新規保有者に最大2万円分のポイントを付与することでも、両党は合意したとみられる。

18歳以下の子供への10万円給付で、所得制限がない場合、給付の総額は1兆9,200億円、その経済効果については、個人消費を7,692億円押し上げると計算できる(コラム「 子供への給付金の経済効果とその課題 」、2021年11月8日)。

一方、厚生労働省の調査(2019年 国民生活基礎調査)によれば、2018年時点で、平均所得が1,000万円未満の世帯は全世帯の87.8%である。960万円未満の世帯の割合は推定で86.2%だ。仮に18歳以下の子供がいる世帯の中で、年収960万円未満の世帯がこの割合であるとすると、給付の総額は1兆6,550億円、その経済効果については個人消費を6,630億円押し上げると計算できる。

個人向け支援策の総額は4兆4,900億円で個人消費を1兆3,720億円押し上げ

ところで、5万円相当のクーポンについても、貯蓄ではなく消費に回る割合は5万円分の現金と同じ40%とした。使途を制限すれば、給付が消費に回る割合が高まると考えるのは正しくないだろう。クーポン自体は利用されても、それ以外の所得を用いた消費の相当割合が、その分控えられる可能性があるからだ。

それ以外の個人向け給付で、マイナンバーカードの保有者、新規保有者に2万円分のポイントを付与する制度については、同じく一時金である2009年の定額給付金が消費に回った比率の25%と同じ割合が消費に回ると仮定し、さらに同制度に促されてマイナンバーカードの保有者の割合が、現在の3人に1人程度から50%に上がると仮定しよう。この場合、予算総額は1兆2,520億円、個人消費の押し上げ効果は3,130億円と計算される。

次に、住民税非課税世帯に現金10万円を給付する制度については、厚生労働省の調査(2019年 国民生活基礎調査)によれば、住民税非課税世帯は1,583万と総世帯数は6,227万世帯の25.4%である。この世帯が現金10万円を受け取る場合、その総額は1兆5,830億円、25%が消費に回ると仮定した場合、個人消費の押し上げ効果は3,960億円となる。

以上3つの個人向け給付を合計すると、予算総額は4兆4,900億円に達する。また個人消費の押し上げ効果の合計は1兆3,720億円となる。年間の名目GDPを0.26%押し上げる計算だ。

個人向け給付は相応に経済効果を発揮することが予想されるが、特に子ども給付については、所得制限が付けられてもなお、コロナ経済対策としては多くの設計上の問題を抱えており、広い意味での費用対効果は小さい、と引き続き考える(コラム「 子供への給付金の経済効果とその課題 」、2021年11月8日)

 

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。