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気候変動オペを12月23日に開始

日本銀行は、初回の気候変動オペ(気候変動対応を支援するための資金供給オペレーション)について、12月23日に実施することを通知した。このオペは、銀行の気候変動対応を支援する狙いで、関連する投融資に対してその額に応じて日本銀行が融資を行う、バックファイナンスの枠組みである。

対象となる投融資は、①グリーンローン/ボンド、②サステナビリティ・リンク・ローン/ボンド(気候変動対応に紐づく評価指標が設定されているもの)、③トランジション・ファイナンス、だ。

日本銀行は今年6月の金融政策決定会合で同オペを実施する考えを突如示し、9月の会合でその基本要領を公表していた。対象先候補となるのは、共通担保オペ(全店貸付)の貸出先と日本政策投資銀行の中で、同オペの対象先となることを希望する金融機関から、日本銀行が認めたものとなる。対象先は、原則として年1回の頻度で見直すが、追加は随時実施できる。

日本銀行が対象先と認める条件は、十分な開示を行っていることだ。具体的にはTCFDが提言(2017年6月)した4項目(ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標)および投融資の目的・実績を開示していることだ。

この条件は、当初予想したよりも厳しいものだった。他方で、貸出条件で貸付付利が0%とされたことは、当初予想よりも小さめのインセンティブであった。この双方から、初回から同オペに参加する金融機関は必ずしも多くはならないことは予想された。

初回の対象先は43機関と少なめ

11月26日に日本銀行は、同オペの対象先と決まった43の機関名を公表した。共通担保オペの対象先が10月27日時点で347機関であることから、単純計算ではそのうちの12%しか同オペの対象先となっていないことになる。そして、対象先には信用金庫の名前が全く含まれていない。これは、その上部組織である全国信用金庫を通じてオペが行われるために、ここでは名前が挙がっていない、という可能性もあるだろう。

ただし、地方銀行(地銀+第2地銀)全99行のうち、このオペの対象先となったのは、28行と全体の28%しかない。やはり、中小零細の金融機関にとって、同オペの対象先となることのハードルは高かったのである。

日本銀行としては対象先の条件をもっと緩くすることもできただろうが、それよりも、時間をかけてより高次な情報開示ができるよう金融機関に促す道を選んだのだろう。条件をもっと緩くして対象先を広げれば、オペの規模も大きくなり、金融緩和策として対外的にアピールすることもできた。そうしなかったのは、あくまでこのオペは、金融機関への資金供給を増やすことよりも、金融機関の気候変動対応を促すことを優先したためだろう。

時間をかけてじっくりと金融機関の取り組みを促す

資金供給の期間は1年であるが、繰り返し利用ができる。制度の終了は2031年3月末までの10年間だ。これは、政府の2030年度の地球温暖化ガス削減目標に合わせたものだろう。当初の参加金融機関は多くなく、また資金供給額も大きくはないだろうが、10年間の時間をかけてじっくりと金融機関の気候変動対応の取り組みを促す狙いだ。まさに「小さく産んで大きく育てる」である。

何をもってグリーンボンド、グリーンレンディングなどと判断するかの統一基準が世界的にも高まっていない中、金融機関にその判断を強いるこの仕組みは、ややフライング的なものでもあり、また金融機関に過大な負担を強いるものでもあるなど、制度設計には問題がある(コラム「 気候変動対応オペで日本銀行のリスク回避姿勢 」、2021年7月19日)。ただし、脱炭素を金融面から推し進める一つの力となることは期待できるだろう。

それでも、日本銀行がグリーンボンドの選別的な買入れなど、さらに気候変動対応に深く関与していくことは、中立性や物価安定という本来の使命と矛盾するケースが出てくるなどの問題があることから、それについては今後慎重に判断すべきだろう。

 

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。