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物価高とオミクロン株への警戒で先行きの景況感は再び低下

8日に内閣府が発表した2021年7-9月期GDP統計・二次速報値では、実質GDPは前期比年率-3.6%と、一次速報値の同-3.0%から下方修正された。緊急事態宣言下にあった実質個人消費が、推計方法の見直しの影響も含めて、前期比-1.1%から同-1.3%へと下方修正されたこと等が背景である。

他方、9月末に緊急事態宣言が解除されたことから、その後の個人消費は回復傾向にある。しかし、その回復力は決して強くはない。10月の家計調査統計で、10月の実質個人消費(二人以上の世帯)は前月比+3.4%増加したが、前年同月比では-0.6%と、依然として減少基調を脱していない。国内パック旅行、宿泊などへの支出が、前年比増加率を大きく押し下げている。

一方、8日に内閣府が発表した11月の景気ウォッチャー調査は、企業の先行きの景況感が急速に悪化していることを裏付けるものとなった。景気の現状判断DIは56.3と10月の55.5から改善したものの、8月の34.7、9月の42.1と比較すると、改善幅は急速に縮小してきている。感染リスク低下に伴う景気持ち直しの勢いは非常に短命であったことがうかがえるのである。特に家計動向関連DIは前月比+0.2とほぼ横ばいにとどまった。小売関連、住宅関連のDIは前月から低下しており、個人消費の回復のモメンタムが急速に失われていることを示唆している。

さらに注目されたのが、先行き判断DIが、前月の57.5から53.4に低下したことだ。家計関連、企業関連共に分野を問わずDIは低下している。景気判断理由をみると、その背景にあるのは、物価高と新型コロナウイルスの新たな変異型「オミクロン株」出現の2つである。足もとでは、エネルギー関連や食品の価格上昇の影響で消費者の節約志向が強まっている、との指摘が小売店などからある一方、変異株の影響で感染が再拡大することへの不安が、衣料品店やタクシー運転手から示されている。

個人消費には逆風が続く

「オミクロン株」の出現によって原油価格は大きく下落し、また物価高の一因となっている円安傾向には歯止めが掛かった。これは個人消費にプラスである一方、「オミクロン株」が感染リスクを大きく高め、緊急事態宣言再発令のように行動規制が求められるような事態となれば、個人消費は再び調整局面に陥る可能性が高い。

他方で、「オミクロン株」に対する警戒が早期に和らぐ場合には、世界では原油価格の高騰など、商品市況の上昇傾向が再び強まることになろう。それは、国内でもガソリン価格、電力料金、食料品などの一段の上昇をもたらす。またそのような局面では円安傾向が再び強まりやすいことも、物価高を後押しするだろう。それらは、個人消費の回復を抑えることになるのである。
そのため、「オミクロン株」の今後の影響がどちらに転んでも、個人消費にはしばらく逆風が続くことになるのではないか。その結果、海外で一時見られたような、リベンジ消費と呼ばれるような強い消費の回復は日本では起きないだろう。

感染リスクや物価高といった要因に加えて、コロナ問題をきっかけに個人の消費行動が構造変化を起こしたことも、回復ペースを抑えることになるだろう。旅行、外食など感染リスクがあるサービスへの支出を減らすという個人の消費行動が定着し感染リスクが低下しても、コロナ問題前の水準の消費には戻らないと考えられる。個人消費の本格回復によって日本経済がコロナ問題前の状態に戻るまでには、まだ時間がかかるだろう。実質GDPの水準でみれば、それは来年後半までずれ込むと予想される。

 

 

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。