日本銀行の本格的な政策変更の可能性は考えられない
米連邦準備制度理事会(FRB)は、12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、11月に開始したテーパリング(資産買い入れペースの段階的縮小)のペースを速めることを決める可能性が高まっている。他方、欧州中央銀行(ECB)は12月の理事会で、コロナ禍への対応として始めた緊急措置のパンデミック緊急資産買い入れプログラム(PEPP)を、来年3月で停止することを決める可能性がある。
この2つの主要中央銀行とは異なり、当面、本格的な政策変更の可能性が考えられないのが日本銀行である。物価上昇率がほぼゼロ近傍にある日本では、日本銀行が金融政策の正常化を急いで進める必要性を欠いている、と広く考えられている。また、物価上昇率が2%の物価安定目標を大幅に下回っている状況では、物価目標政策を修正しない限り、金融政策の正常化は正当化されない。
米国との金融政策の差にも起因する円安進行が、輸入品の価格を押し上げる「悪い円安」となっていることから、日本銀行に円安阻止の対応を求める声も一部にあったが、オミクロン株の出現によって円安が修正されたことで、そうした声も今は収まっている。
コロナ禍で企業、雇用を引き続き守り抜くという姿勢をアピールか
そうした中、今年最後の金融政策決定会合でわずかながら注目を集めているのが、来年3月末で期限が切れる「新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラム」、とりわけその中でのコロナオペの扱いである。日本銀行の政策についての注目点は、12月23日の気候変動対応オペの初回実施と、このコロナオペの延長くらいしか、今はないのである。
日本銀行副総裁は、短観での企業の資金繰りの状況などを見極めつつ、12月あるいは来年1月の決定会合で延長するかどうかを慎重に判断するとの考えを示している。しかし実際には、内部で大きな議論もなく、12月の決定会合で半年間の延長が決まるのではないか。
コロナオペが、コロナ禍で大きな打撃を受けている企業の資金繰りを引き続き助けるか否か、という実効性の観点よりも、政府と協力しながらコロナ禍で企業、雇用を引き続き守り抜く、という日本銀行の積極姿勢をアピールすることが、日本銀行にとっては重要なことだろう。
コロナオペによる日本銀行の民間銀行への貸出額は、11月30日時点で81.3兆円である。増加ペースはかなり落ちてきているが、なお、日本銀行の貸出全体の57%と半分以上を占めている。これを一気に打ち切るのはやや乱暴ではないか。特別プログラムの中のCP・社債買い入れの特別措置については終了が決定される可能性もあるが、そのまま延長される可能性の方が高いと見ておきたい。
日本銀行は銀行の収益環境に配慮
いずれは、実質無利子無担保の保証付き融資の最大5年の期限が切れ、また銀行のプロパー融資の期限も切れていくことで、コロナ関連融資が縮小し、それに合わせて日本銀行によるそのバックファイナンスであるコロナオペの残高は顕著に低下していくことになるはずだ。それがより明確になる将来時点になってから、コロナオペが歴史的役割を終えたとして、日本銀行は同制度の終了を決めるのではないか。
コロナオペが随時縮小していく中で、日本銀行のマネタリーベース(日銀当座預金+現金)は縮小傾向を辿っていく。この過程でマネタリーベースは減少が続くことになり、「消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続する」というオーバーシュート型コミットメントに反するという問題が生じる点が注目される。
だからと言って、日銀当座預金の残高を減らさないように、コロナオペの後継制度を作り出すことは無理である。コロナオペという一時的な緊急措置が役割を終えて縮小、あるいは解除される中でマネタリーベースが減少することは、オーバーシュート型コミットメントには反しない、との解釈がなされるだろう。
また、資産買い入れとは異なり、コロナオペのような市中銀行に対する日本銀行の貸出は、まさに伝統的な政策手段であり、副作用は概して小さいと考えられる。仮に何か支障があっても、簡単にその規模を縮小させ、迅速に正常化できるのである。
先般日本銀行は、コロナオペの規模が予想外に大きくなったことなどで、地域銀行の経営基盤強化を支援する特別当座預金制度の上乗せ付利の利払い額が予想以上に膨らんでしまったとして、それを縮小する制度の見直しを突如発表した。その結果、地域銀行は、同制度のもとで見込んでいた将来の利益を失うことになったのである。
それに対する償いの意味も込めて、銀行に対する事実上の補助金の意味合いもあるコロナオペの延長を、日本銀行は早期に決めるのではないか。コロナオペの停止を決めると、銀行が期待していた将来の付利の受け取りがなくなる、という機会損失がまた生じることにもなってしまうのである。
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