利上げ開始前の異例なイールドカーブフラット化
12月14、15の両日に開かれる米連邦公開市場委員会(FOMC)では、テーパリング(資産買い入れペースの段階的縮小)の加速が決定される可能性が高い。実際に加速が決定されれば、それは、来年の利上げ(政策金利の引き上げ)の前倒し実施観測を強めることになるだろう(コラム「 続く物価の高騰とFRBの利上げ前倒し観測 」、2021年12月13日)。
ところで、FOMCを前にして、米国金融市場では米国債のイールドカーブ(利回り曲線)がかなりフラット化している背景について、様々な議論がなされている。政策金利の見通しを反映しやすい2年債の利回りと10年債の利回りの差は、10月初めには1.3%ほどであったが、米連邦準備制度理事会(FRB)が11月3日のFOMCでテーパリング開始を決め、さらにテーパリングの加速見通しから利上げ前倒し観測が強まる中で、足元では0.8%ほどまで縮小している。
長短金利差で見るイールドカーブのフラット化は、通常は、利上げが進んでいく中で見られる現象である。ところが、利上げがまだ開始されない中でこれほどのフラット化が進むのは意外ではないか。問題は、利上げ期待が高まる中でも、長期債の利回りがあまり上昇しないことにある。
FF金利のピークのイメージは1%台と前回のピークを下回る
現在のFF金先市場には、政策金利であるFF金利は来年5月頃までに1回、0.25%の引き上げが織り込まれている。しかし、その後の利上げペースはかなり緩やかである。2022年末には合計で0.7%、0.25%ずつの利上げであれば合計3回弱の利上げが織り込まれている。2023年末には合計で1.1%、2024年末で1.8%程度である。
前回の利上げ局面では、初回の0.25%の利上げから次の0.25%の利上げまでに1年を要した。これと比べると、今回は、当初こそ比較的速めに利上げが進むものの、その後の利上げは大きくペースダウンする見通しとなっているのである。そして、FF金利のピークのイメージは1%台と、前回の利上げ局面のピークである2.5%よりもかなり低い。利上げ観測が強まる中でも10年国債利回りが1.5%程度にとどまっているのは、こうした金利観を反映している。
メッセージ性重視の利上げか
新型コロナウイルス問題をきっかけに、インフレ率のトレンドはそれ以前よりも高まり、長きに渡る世界の金利低下局面は終わりつつある、との見方も少なくない。しかし、金融市場の見通しはこれとは全く異なるのである。
前回の利上げ局面ではテーパリングは開始から完了までに10か月を要した。現在は8か月のペースであり、仮に次回FOMCでテーパリングのペースが2倍に修正されれば、4か月程度となる。さらに、前回はテーパリングの完了から利上げまでには14か月を要したが、今回はほぼ時間差なく利上げが実施されると市場では見込まれている。
このように、テーパリングから利上げ開始へのプロセスについては、前回と比べてかなりの急ピッチとなることが、市場では見込まれている。しかしながら、利上げ開始以降は一転緩やかなペースの利上げが見込まれており、利上げ幅も前回よりも小さいのである。
足もとの物価の高騰は長続きしない一方、経済や金融市場は大幅なFRBの利上げには耐えられない、と市場は考えているのではないか。そうであるとすれば、その見方は正しいように思われる。そして、早期の利上げ実施については、金融市場あるいは家計、企業のインフレ懸念を鎮静化させるため、そして、支持率低下を背景に物価高騰への対応を進めるバイデン政権に配慮したものであり、当面は、経済、物価に与える実効性よりもメッセージ性を重視するタイプの利上げを市場は想定しているのではないか。
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