&N 未来創発ラボ

野村総合研究所と
今を語り、未来をみつめるメディア

建設統計のデータ書き換え、二重計上問題が発覚

政府の公式統計に対する国民の信頼性、ひいては政府の経済政策運営に対する信頼性を損ねる問題が、再び浮かび上がっている。国土交通省の毎月統計「建設工事受注動態統計」で、データを二重に計上していたことが明らかになったのである。

調査票を建設業者から集める都道府県に対し、同省が受注実績を実質的に書き換えるよう指示していた。建設業者は毎月1か月分の調査票を提出することが求められるが、実際には1割程度はその期限に間に合わない。そこで国土交通省は2013年度以降、未提出のデータを推計値で埋める補正処理を導入した。他方で、遅れて提出されたデータを、すべて最新1か月分として記入するよう都道府県に要請したのである。その結果、データの二重計上の問題が、2021年4月に推計方法を見直すまで8年間続いた。

基幹統計のデータ書き換えは、国の指示を受けた都道府県の職員らの手で行われていた。建設業者が鉛筆で書いてきた受注実績を、消しゴムで消して書き換えていたという。

国交省は会計検査院の指摘を受けて、今年4月分から統計方法を変更して、この二重計上をやめた。さらに、2020年1月以降の数値をさかのぼって再集計した。

建設工事受注動態統計はGDP統計の推計に用いられる重要な基幹統計である。2019年度以前の統計は、調査票のデータが残っていないため再集計できないという。その結果、正確な過去のGDP統計は、永遠に得られないことになる。

統計の無断書き換えは悪質

2018年末に発覚した、厚生労働省の毎月勤労統計をめぐる問題では、従業員500人以上の大規模事業所をすべて調べる全数調査が原則であるにもかかわらず、東京都では、3分の1を抽出する調査が行われていた。また、ひそかに不正なデータを本来の調査に近づける補正が行われていたことも明らかになった。この統計をもとに給付水準が決まる雇用保険などで、給付額が少なくなっていた人はのべ2015万人に上るなど、社会的な影響も大きかったのである。そして、政府の公式統計に対する信頼性が損なわれたとして、大きな問題となった。

この問題を受けて、総務省が政府統計の一斉点検を実施した。しかしその際に、今回の不適切な処理は明らかにならなかった。これは不思議なことであり、今後詳しく調査を行うことが必要だ。また、今回は統計を提出者に無断で書き換えていた点で、より悪質と言える。この行為は、統計法に違反するおそれがあるとの指摘もある。また、刑法上の公用文書毀棄(きき)罪が成立しうるとの指摘もある。

組織改編を含めた抜本的な対応を

今回発覚した問題が、政府の公式統計に対する信頼性を改めて損ねてしまったことは確かだ。そして、それに基づいて行われる政府の経済政策全般に対する信頼性も損ねてしまった。信頼回復に向けて迅速な対応を見せることが、政府には強く求められる。

省庁の各統計部署には専門家が配置されているが、それを管理するポストは、短期間のローテーション人事でキャリア官僚が配置される傾向がある。彼らは、統計の専門家ではないケースが多いことから、統計集計における不正などの問題を見抜けないことが多いのではないか。

こうした問題を抜本的に解決するには、政府統計を総務省あるいは新設の部門に移管、集約し、そこで、専門性の高い管理職のもとで業務を行うようにするやり方が必要なのではないか。政府統計に対する信頼を回復する観点からも、このような大きな組織改編も検討すべきだろう。

統計に対する外部からの信頼性は、そのユーザーにとって重要であることは改めて言うまでもない。それに加えて、統計への信頼性が低下すると、それ自体が統計の精度をさらに低下させてしまう、という悪循環のリスクもある。データを集計し発表する担当部署が丁寧かつ正確に集計していないとの疑念が広がれば、データを提供する側も、時間をかけて丁寧に回答するインセンティブが低下してしまうからである。この点から、統計の精度は、データの提供者と集計者の間の強い信頼関係によって成り立っている面があると言える。

(参考資料)
「建設統計で不適切集計 国交省、データを二重計上」、2021年12月15日、日本経済新聞電子版
「建設統計、8年間過大に―国交省、二重計上で」、2021年12月15日、共同通信ニュース
「書き換え手順、国が指示 県職員ら、消しゴム使い数字消す 基幹統計データ」、2021年12月15日、朝日新聞
「書き換え、一斉点検後も 国交省「問題と思わず」基幹統計データ」、2021年12月15日、朝日新聞

 

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。