不動産不況とゼロコロナ政策で中国経済が成長鈍化
中国国家統計局が15日に発表した一連の経済統計は、中国経済の成長鈍化傾向が一段と強まっている可能性を示唆するものとなった。中国経済の成長鈍化は、2022年の世界経済にとって大きな逆風の一つである。
まず11月の工業生産は前年同月比+3.8%と、10月の同+3.5%、事前予想の同+3.7%をやや上回った。輸出増加の影響が考えられる。
他方、内需の動向を示す指標は、いずれも下振れたのである。 1-11 月の固定資産投資は前年同期比+5.2%となった。これは事前予想の同+5.4%をやや下回り、1―10月の同+6.1%から大幅に減速している。そのうち不動産投資は同+6%と、1-10月の+7.2%からより大幅に減速している。
また11月の小売売上高は前年同月比+3.9%となった。これは事前予想の同+4.6%、10月の同+4.9%のいずれも大きく下回った。飲食・ケータリングの売上高は同-2.7%と減少した。
こうした11月の経済指標が示す内需不振は、不動産部門のスランプと政府によるコロナ対策としての強い規制措置、いわゆる「ゼロコロナ政策」の2つの要因によるところが大きい。
中国の不動産低迷は10-12月期に入っても続いており、11月の住宅価格、販売、投資、建設は、いずれも需要低迷と開発業者の資金繰り悪化等により、マイナスとなっている。不動産部門は深刻な不況に陥っているのである。
またコロナ対策については、中国の東部・浙江省で新型コロナが流行していることから、感染防止対策の一環として上場企業の少なくとも20社が操業を停止しているという。
積極財政は直ぐには実現できない
今後1年間の経済の優先課題を決定する中央経済工作会議が10日に終了したが、そこで政府は、全地方政府関係者に対して、経済の安定化のための責任を負い、必要に応じて政策を前倒しし、財政支出を迅速化することを求めた。これは、不動産部門を中心とする経済活動の鈍化に対する政府の危機感の表れだろう。
しかしながら、政府は財政拡張策に一気に舵を切った訳ではない。政府は、地方政府の簿外債務を断固抑制し、財政規律を守ることも求めている。構造改革も同時に進める考えなのである。
さらに、地方政府は財政を拡大させたくてもできない事情がある。地方政府の歳入の3分の1程度は土地売却による収入とみられているが、不動産市況の低迷によってその収入が大幅に減少している。そのため、財政拡張の原資が十分に確保できないのである。また一部の地方政府は、中国恒大集団の未完成プロジェクトを完成させる義務を負うことになったため、他に支出を拡大させる余裕がない。
従って、政府が地方政府に積極財政を求めても、それが直ぐに実行される状況にないのである。このもとでは、中国経済の成長鈍化は来年前半にかけてさらに続く、場合によっては鈍化のペースを高めていく可能性があるだろう。2021年7-9月期の実質GDPは前年同期比+4.9%と予想外に下振れたが、10-12月期は同+4%を下回るとの予想も出てきた。
中国経済の成長鈍化は、オミクロン株を含む感染リスクの影響、物価高騰の影響と並んで、来年前半の世界経済にかなりの悪影響を与えるだろう。2020年のコロナショックから持ち直し傾向を辿ってきた主要国の経済は、来年前半には踊り場を迎えることになるのではないか。
(参考資料)
“China’s Economy Slows in November as Property Slump Deepens", Bloomberg, December 15, 2021
"Muddled Priorities and Monetary Policy in Beijing", Wall Street Journal, December 14, 2021
「中国11月統計、鉱工業生産は伸び加速 感染再拡大で消費鈍化」、2021年12月15日、ロイター通信ニュース
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