「LOGINK」を通じて中国は世界の物流データを支配へ
中国が世界の物流に関するデータを把握する能力を急速に拡大させている、と米ウォールストリート・ジャーナル紙が警戒的に報じている。それを通じて中国が、経済活動のみならず安全保障上の優位を高めることにもつながりかねないためだ。
中国は、2007年に開発された「LOGINK」と呼ばれる物流情報システムを軸にデジタルネットワークを拡張している。LOGINKは世界の荷主を結ぶデジタルネットワークであり、「ワンストップの物流情報サービスプラットフォーム」とも呼ばれている。そこでは、公的データベースのほかに、実に45万以上に上る中国国内および世界各地の巨大港湾のユーザーから入力された情報も併せて利用されている。中国政府はこれを通じて、世界の商取引に関する他国には分からない情報を得ることができるのである。
LOGINKの過去の経緯を振り返ると、その正式名称は国家交通運輸物流公共信息平台(国家物流平台)であり、中国国内で長年にわたり、海運、トラック運送、製造業の貨物データおよび財務情報を集約して発展を遂げてきた。転機となったのは2010年であり、その年に、より迅速に貿易の流れを把握すること目指してアジア各地の港湾と提携するようになったのである。そして最近では、一帯一路に参加している国の港湾や、欧州および中東の貨物データシステムとも連携するようになった。
LOGINKのシステムを使って、そのユーザーはSNSのようにつながり、情報を共有することができるという。そして中国政府はLOGINKの管理者として膨大な情報を入手し、それを経済、あるいは安全保障上の戦略に活用できる。さらに、このLOGINKの情報を税関データと組み合わせることができれば、価格や数量、顧客などに関する価値の高い情報を作り上げることもできるのである。
「一帯一路構想」に貢献
またネットワークには、中国の広域経済圏構想「一帯一路」に参加している港湾のデータも含まれており、中国の国家戦略である同構想を支える役割も果たしている。LOGINKのウェブサイトにも、その国際的な情報共有能力は、「一帯一路国家戦略に貢献」と書かれている。
そのため、安全保障の観点からも、米国は中国による国際物流データの把握を見逃せなくなってきている。調査を開始した米議会の米中経済・安全保障調査委員会のマイケル・ウェッセル委員長はこのLOGINKについて、「データ保有者にとって、国家安全保障や経済的利益につながる情報の宝庫となる可能性がある」と指摘しており、また、「これまでよりはるかに大きな懸案であるべきだ」とも述べている。
米国のレアアース確保にも影響か
LOGINKに関連して、米国が特に強く警戒しているのがレアアース(希土類)である。米国政府は中国との貿易関係を解消してデカップリングを進め、中国が介在するサプライチェーンの見直しを進めている。その際、自動車や電子機器、防衛システムなどの製品に欠かせないレアアースについて、依然として中国に大きく依存していることを問題としている。そして、中国離れを進めるために米国は、オーストラリアへの依存度を高めようとしているのである。
オーストラリアは、国内の鉱山会社ライナス・レアアースを通じて、米国にレアアースの供給をすることが可能だ。ただし同社は現在、マレーシアでレアアースを加工しており、その際、一帯一路に参加している港湾のクアンタン港を通ることになる。同港は中国の国営企業が支配しているのである。
LOGINKは、クアンタン港やその他の港のデータにアクセスすることで、オーストラリアによる米国へのレアアース提供の実態を掴み、何らかの対応を行うことが可能であるかもしれない。
世界の国際資金決済については、米国がそのデータを牛耳り、それを安全保障政策にも最大限利用してきた。今度は中国が世界の物流データを牛耳り、それを対米戦略に活用する可能性も出てきたのではないか。データを巡る米中の覇権争いは、その範囲を拡大させつつ一段と熾烈さを増している。
(参考資料)
"China’s Growing Access to Global Shipping Data Worries U.S", Wall Street Journal, December 21, 2021
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