金利上昇に脆い米ハイテク株
年明け後の米国株式市場は、調整色を強めている。米国での利上げ(政策金利の引き上げ)観測の高まりや長期金利の上昇が、今まで市場を牽引してきたハイテク株の株価を押し下げているためだ。昨年9月にも、財務省証券10年利回りが1.5%を超えた時点で、ハイテク株は調整色を強めた。足もとでは、10年利回りが1.8%程度まで上昇したことが、調整のきっかけとなった。
ハイテク株に代表されるグロース株(成長株)は、一般に金利上昇の打撃を大きく受けやすい。将来の成長が織り込まれたグロース株は、株価を一株当たり利益で割ったPER(株価収益率)が高く、その逆数である益利回りが低い。低金利環境のもとではこの益利回りの低さは容認されるが、金利水準が上昇する中では、益利回りの低さがハイテク株への投資妙味を低下させる傾向がある。
コロナ禍で経済全体が低迷する中でも、巣籠り消費、リモートワークなどの追い風を受けやすいGAFAなどハイテク企業の株は堅調を維持し、米国株式全体を強く牽引してきた。このように、コロナ禍で予想外の強さを発揮したハイテク企業の株も、金利上昇には脆かった印象である。
ハイテク銘柄に著しく偏った株式市場
2021年のS&P500種指数で最も上昇率が高かったのは、エネルギー関連株だった。しかし、時価総額が大きく膨らんだ大型ハイテク株が、指数全体の上昇に最も大きく貢献したのである。アップル、 マイクロソフト 、グーグル親会社アルファベット、アマゾン・ドット・コム、 メタ・プラットフォームズ (旧フェイスブック)の5社を合わせた時価総額は、昨年末に10兆ドルを超えた。年初の7兆5000億ドルから35%も増加したのである。
また、ゴールドマン・サックスによると、S&P500種指数は構成銘柄のうち超大型株の5銘柄、マイクロソフト 、エヌビディア、アップル、アルファベット、テスラが、昨年のS&P500種の上昇率約22%のうち約3分の1に貢献した。コロナ禍を契機に、米国株式市場では、時価総額の大きい大型ハイテク株の影響力が著しく強まったのである。
S&P500種指数は、時価総額の加重平均で算出されている。それを、すべての株価の均等平均で算出したイコールウエートのS&P500種のパフォーマンスと比較してみよう。通常、より多くの銘柄が幅広く上昇している時には、後者が前者を上回る傾向がある。2020年11月から2021年4月にかけては、後者が前者を7ポイント上回っていた。ところが2021年後半には、前者が後者を4ポイント近く上回ったのである。これは、市場の広がりが狭まり、株式市場にパフォーマンスが、一部の大型銘柄によって左右されていることを意味する。それは、脆弱な株価上昇の構図でもある。
ゴールドマンによると、1980年以降、市場の広がりがこれほど急激に狭まった例は他に11回しかなく、直近では2018年が最後だという。さらに、これらの期間のほとんどで、S&P500種はその後の1か月、3か月、6か月、12か月のそれぞれのリターンが過去の平均を下回ったという。
ハイテク株はヒーローから厄介者か
コロナ禍では予想外の強さを見せ、米国株式市場を牽引した大型ハイテク株が、その時価総額の大きさゆえに、利上げ局面では、過去にないほど株式市場全体の足を引っ張る可能性が出てきたのである。
大型ハイテク株の敵は、実は金利上昇だけではない。2022年には規制リスクも逆風となり得る。2021年に民主党政権が誕生したが、当初懸念されていたような大型ハイテク企業に対する規制強化の動きは強まらなかった。しかし2022年には規制強化が本格化するとの見方が少なくない。秋の中間選挙に向けて、民主党急進派が動き始める可能性があるからだ。従来、大型ハイテク企業の独占体制が問題視されてきたが、それに対する規制に加えて、データの透明性やネット上の書き込みをモニタリングする投稿監視業務、コンテンツモデレーションに関する規制が導入される可能性が高い、と見る向きもある。
利上げと規制強化が重なれば、ハイテク株にはダブルパンチとなる。昨年までコロナ禍で米国株式、あるいは世界の株式を牽引してきた一種ヒーローでもあったGAFAなど米国大型ハイテク株が、一転して株式市場の足を引っ張る厄介者になる可能性がある。そうした可能性を予感させる年明け後の株式市場の動きである。
(参考資料)
"Tech Selloff Prompts Bets Against U.S. Stock-Market Supremacy", Wall Street Journal, January 7, 2022
"Big Tech’s $10 Trillion Bet on Politics as Usual", Wall Street Journal, December 31, 2021
"Five Big Tech Stocks Are Driving Markets", That Worries Some Investors, Wall Street Journal, December 22, 2021
プロフィール
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。