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14日の金融市場では、来週17・18日の金融政策決定会合を前に日本銀行が、物価目標が2%に達する前に利上げをすることが可能かどうか議論している、との観測報道が流れた。これを受けてドル円は113円台まで円高が進み、債券市場、株式市場にも悪影響が生じている。

来週18日の金融政策決定会合で、日本銀行が利上げ(マイナス金利解除)を決定する可能性はゼロに近い。こうした観測記事に金融市場が大きく反応したのは、他国と比べて物価が落ち着いている日本でも、来年度には消費者物価(除く生鮮食品)が1%を超える可能性が高まっていること、米国で利上げが前倒しに実施されるとの観測が強まる中、日本銀行が政策の現状維持を続ければ、日米金利差の拡大で円安が進み、それが悪い物価上昇を通じて国民生活を圧迫するとの批判が高まるとの見通しであること、などが背景にあるのではないか。

しかし黒田総裁は、先行き物価上昇が高まる見通しではあるものの、それは賃金上昇などを伴う持続的なものではなく、金融政策の変更が行わない、との考えを明確に示している。

物価上昇が持続的でなくても、一時的な物価上昇を捉えて日本銀行が2%の物価目標を達成したと宣言し、様々な副作用を生む異例の金融緩和の正常化に乗り出す、との市場の観測が従来からある。黒田総裁は、こうした観測を強く否定しているのだ。仮にそうした政策を行えば、黒田総裁が打ち出した物価目標の達成を道半ばであきらめ、いわば白旗を上げることになってしまうからではないか。

ただし、黒田総裁が2023年4月に退任した後には、日本銀行が利上げを含む正常化策を明示的に進める可能性は十分に出てくるだろう。金融政策姿勢を巡る日本銀行内部での構図は、任期終了まで現状維持を続けたい黒田総裁、追加緩和を主張するリフレ派、正常化を視野に入れる日銀事務方、の三つ巴ではないか。それぞれが拮抗しているため、結果的に政策は現状維持となりやすい。

来週の決定会合では、利上げが決定される可能性がほぼゼロであるばかりでなく、利上げの議論もされることはないだろう。しかし決定会合以外の場では、黒田総裁の退任後に正常化を進めるプロセスについて、既に事務方で議論をしている可能性はあるだろう。この点で、観測報道は正しい面もあると言えるのではないか。今後も、ポスト黒田体制の下で日本銀行が正常化を進めるとの観測が市場に頻繁に浮上し、それが円安圧力を食い止める役割を果たすのではないか。

 

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。