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各中銀が金融引き締め方向へと動く流れが続く

昨年末から年明けにかけ、世界で感染問題が再び深刻になる中でも、多くの中央銀行が物価高に対応して金融引き締め方向へと動く流れは変わっていない。

カナダ銀行(中央銀行)は1月26日に、政策金利を従来の0.25%に据え置いた。声明文では雇用環境が大幅に改善していると指摘して、今後利上げに動く必要があると述べている。早ければ3月の会合で利上げに踏み切る可能性が高まったのである。また声明文では、カナダ国債の保有資産を減らす量的引き締め(QT)にも言及があった。政策金利の引き上げを始めるまでは、資産圧縮に着手しないとの説明であり、米連邦準備制度理事会(FRB)と同様に、利上げ開始後、数回の会合を経てQTに動くとみられている。

オーストラリア準備銀行(中央銀行)は2月1日に、政策金利の引き上げは見送る一方、週40億豪ドルペースで実施してきた債券購入プログラムを今月で打ち切ることを決定した。いわゆる量的緩和の終了である。このように、カナダ銀行、オーストラリア準備銀行ともに、金融引き締め方向へと一歩動いた感はある。ただし、双方とも利上げを見送ったことで、その直後にそれぞれの通貨が売られている。

2月3日には欧州中央銀行(ECB)の政策理事会が開かれる。ECBは2021年12月の前回の理事会で、コロナ対策で導入した緊急の資産購入制度(PEPP)を2022年3月末で終了することを決めた。今回の理事会では、追加の政策変更は予想されていない。ラガルド総裁は「2022年に利上げする可能性は極めて低い」と、利上げには慎重な考えを示している。

ただしECB理事会メンバーのナーゲル・ドイツ連邦銀行(中央銀行)総裁は、「インフレ率が想定よりも長期間、高止まりするリスクが大きくなっている」と発言するなど、物価高騰への警戒はECB内でも強まる方向だ。金融市場では、今年年末までに0.25%程度の利上げの可能性が織り込まれている。ラガルド総裁のハト派的スタンスに変化が見られるかどうか、市場は理事会後の記者会見に注目している。

BOEの金融政策が先導役に

今週最も注目されるのが、ECBと同日の2月3日に開かれるイングランド銀行(中央銀行、BOE)の政策会合だ。市場では、0.25%の追加利上げがほぼ確実視されている。ただし、BOEは昨年11月の会合では市場の利上げ予想に反して据え置き、12月には据え置き予想に対し利上げを決定した。2回連続で市場の期待を裏切る決定をしていることから、今回も市場はサプライズへの警戒を緩めていない。さらにBOEは、今回の会合で、満期を迎えた国債の再投資を停止することが予想されている。これは量的引き締め策(QT)である。

先進国の中央銀行では既にニュージーランド、ノルウェーなどが既に利上げを実施しているが、主要な先進国の中ではBOEが最も早く利上げを実施していることから、その決定は、FRBやECBの政策の先行きを占うものとして注目されやすい。そのため、世界の金融市場に与える影響も大きくなりがちだ。

利上げ、通貨高を通じて物価上昇圧力の押し付け合いに発展も

温度差はあるとはいえ、各中央銀行は国内での物価上昇圧力の高まりを一様に警戒している。さらに、国内での物価上昇圧力だけでなく、海外から物価上昇圧力を輸入してしまうことも警戒しているのである。つまり、通貨安による物価上昇リスクだ。

日本でも、円安が物価高を助長する「悪い円安」の議論が高まっている。日本銀行は、今のところは円安を容認する姿勢を見せているが、他の中央銀行は、自国通貨安による物価上昇圧力を警戒して、通貨安回避のために利上げを前倒しにするところが、今後出てくる可能性があるだろう。

自国通貨安による物価上昇圧力の高まりを回避する、あるいは自国通貨高によって物価上昇圧力を海外に輸出するために、各中央銀行が一斉に利上げを加速させるような動きが今後出てくるかもしれない。その場合、中央銀行はまさに利上げ競争の様相を強めるのである。

ただし、日本銀行が利上げに動く可能性は当面は小さいことから、多くの国の通貨に対して円安が進み、日本が多くの国から物価上昇圧力の輸入を押し付けられる構図となるリスクがあるだろう。

他方、多くの国で利上げが進む中で世界の金融市場が不安定となれば、リスク回避で円は買われるため、そのような事態にはならない可能性も考えられる。しかしそのいずれのケースでも、日本経済にとっては強い逆風となる。

 

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。