四半期開示は市場の効率化に貢献
岸田首相が掲げる「新しい資本主義」の柱の1つが、企業業績の四半期開示の見直しである。鈴木財務・金融相は28日に、四半期開示の見直しに向けて、金融審議会を通じて今春にも論点整理に関する報告書をまとめる考えを示した。
「四半期開示が経営者や投資家に短期志向をもたらしているため、それを見直すことで、企業が様々な社会的な課題への対応を含む、より長期の視点に立って経営を行うようになる」という可能性を想定して、岸田政権は議論を進めようとしている。ただし、四半期開示が企業の短期志向(ショートターミズム)を助長しているかについて意見は分かれるところであり、学術的にもコンセンサスは得られていない。
少なくとも日本の実情を見る限り、四半期開示が企業の短期志向を大きく増幅させているようには思えない。季節性も含み振れの大きい3か月だけの業績で市場の評価を得ようとする企業は多くないだろう。四半期開示には、企業、投資家ともに、四半期の数字そのものよりも、そこから年間決算の進捗度合いを確認する意味合いが強いのではないか。
また四半期開示には、投資家により最新の財務情報を提供することで、企業のファンダメンタルズが市場価格に反映される時間差を縮小するという重要な役割がある。それは、市場の効率化にも貢献していると言えるだろう。
企業の負担などを踏まえ情報開示の在り方を議論することは重要
ただし、四半期開示が企業に大きな事務負担をかけている可能性はあり、その観点も踏まえて、情報開示の在り方を改めて議論することは重要ではないか。近年では、企業に非財務情報の開示が多く求められる傾向にあることから、財務情報と非財務情報とのバランスも議論の対象とすべきではないか。また、四半期開示についても、年間値の進捗確認により比重を置いたような形式に修正することも検討課題であるかもしれない。
米国では、1970年代から四半期開示が企業に義務づけられている。日本では、1993年に東京証券取引所がマザーズ市場を開設した際に取引所のルールとして四半期開示を始めた。2003年には同じ証券取引所のルールで、四半期開示が上場企業すべてに求められた。そして、2008年に金融商品取引法上の義務になった、という経緯がある。
四半期開示が、企業や投資家の行動が短期主義化している、あるいは企業の負担になっているとして、それを見直すべきとの議論は今までもなされてきた。2018年には金融庁のディスクロージャーワーキング・グループ(WG)で本格的な議論がなされた。しかし、最終的には四半期開示を見直さない、との結論が出されたのである。海外投資家が、日本が企業の情報開示に後ろ向きと考え、株価に悪影響が及ぶことなどが警戒されたためである。四半期開示を取りやめれば、そうしたリスクがあることは、今でも変わらないだろう。
ステークホルダーによるガバナンスを通じて企業経営を変革させる
英国やフランスが四半期開示の義務を撤廃したが、上場企業の多くがその後も任意で公表を続けている。日本においても、四半期開示を金融商品取引法上の義務の対象から仮に外したとしても、ほとんどの企業は任意で四半期開示を続けるのではないか。一度公表を始めた四半期開示を止めれば、投資家からは情報開示の姿勢が後退したと受け止められる可能性があるからだ。そのため、義務化を見直しても、実質的には変わらないだろう。
仮に、四半期開示が企業の短期志向に何らかの影響を与えている側面があるとしても、それを取りやめただけで、企業の経営姿勢がより長期の視点に基づくものへと変わることはないはずだ。ESG投資の拡大など金融市場の力を通じて、世界中の企業はより中長期の社会的課題に対応するように、経営姿勢を既に変えてきている。政府はこうしたステークホルダー(利害関係者)によるガバナンス(企業統治)を通じて企業経営を変革させる流れを尊重することが望ましく、政府による過剰な介入は控えるべきではないか。
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