外国人新規入国者数の上限を1日5,000人まで引き上げか
コロナ対策の一環として、日本では外国人の入国を強く制限する「水際対策」がとられてきた。それは海外と比べて厳しいものであった。さらにオミクロン株の世界的な広がりを受けて、昨年11月末以降、外国人の新規入国は「全世界を対象に原則停止」の措置が導入されている。
しかし、入国規制が厳し過ぎること、特に外国人留学生の受け入れを強く制限していることは、海外から批判の対象となっている。海外メディアでは、こうした政策に「鎖国」という言葉まで使っている。さらに、大学間での交換留学制度のもとで、日本が海外からの留学生を受け入れないと、日本から海外への留学にも悪影響が及び、長い目でみれば日本の教育レベルや国際競争力にも悪影響が出る、との批判も出ている。
そこで政府内では、現在1日3,500人の外国人新規入国者数の上限を、5,000人にまで引き上げる緩和措置が検討されている。その場合、上限引き上げのかなりの部分が外国人留学生となるのではないか。在留資格の事前認定を受けたにもかかわらず、来日できずに足止めされている外国人留学生の数は、現在約14万7,000人に上るという。
増加する外国人留学生の学費は年間3,800億円程度
コロナ問題が生じる前の2019年には、外国人留学生の入国数は年間12万1,637人だった。これは一日当たりに換算すると333人である。3,500人から5,000人までの上限引き上げ分の1,500人のうち、半分の750人程度が外国人留学生になると想定しよう。現在足止めされている人が相当数に上るため、外国人留学生の入国増加数は、この規制緩和後に、コロナ問題前の2019年全体の約2.3倍となる想定だ。
ところで、外国人留学生の入国は、比較的大きな経済効果を日本にもたらしやすい、と考えられる。入国後に彼らが日本で生活をして消費活動を行うだけでなく、学費も支払うためである。私大学部生の学費を外国人留学生の代表的なものとみなす場合、それは日本留学支援センターによると99.4万円から179.4万円程度となる。その中央値をとって139.4万円としよう。
外国人留学生が1日750人入国する場合、年間ペースでは27万3,750人となる。彼らが平均で139.4万円の学費を支払うと、総額は3,816億円にも達する計算だ。
外国人新規入国者の上限引き上げによる経済効果は1兆6,100億円程度
他方、外国人留学生を含めて新たに増加する1日1,500人の外国人新規入国者のうち、長期滞在者は、消費者として、あるいは生産活動を行うことを通じて日本にプラスの経済効果をもたらすことになる。他方、企業の出張など短期滞在者は、その効果が小さいと考えられる。
2021年の外国人新規入国者のうち、短期滞在者は全体の47.3%を占めていた。この比率を用いると、新たに増加する1日1,500人の外国人留学生を含む外国人新規入国者のうち、長期滞在者は1日791人、年間では28万8,715人となる。
この長期滞在者が、日本の国民一人当たりが生み出す名目GDPの平均値と同額の経済効果を生み出すと仮定すると、それは426.3万円となる(2020年度の名目GDPである535兆5,099億円と日本の現在の人口総数の1億2,563万3千人から計算)。
これに長期滞在者の年間入国者数の28万8,715人を掛けて計算すると、1兆2,308億円となる。さらに、外国人留学生の学費を加えると、外国人新規入国者の上限引き上げによる経済効果は、1兆6,124億円となる。これは1日あたりでは44.2億円となる。また、年間名目GDPの0.3%に相当する。
入国者数や待機期間などの水際対策の見直しについては、感染リスクへの影響も考慮に入れ、科学的根拠に基づいて慎重に行うべきものである。ただし、仮に政府が検討している、1日5,000人までの外国人新規入国者の上限引き上げが行われれば、上記の計算にように相応の経済効果を短期的に生じさせることが期待される。
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