欧米はついに対ロシアSWIFT制裁の発動を決める
米国と欧州連合(EU)、英国などは2月26日に共同声明を発表し、ロシアの特定の銀行をSWIFT(国際銀行間協会)から排除する方針を示した。
ただし注意したいのは、ロシアのすべての銀行を対象とするのではなく、一部の銀行のみが対象となることだ。エネルギー関連の決済を担う銀行は対象としないことで、世界のエネルギー供給への影響を大きくしないように配慮される可能性なども考えられる。
ロシアからの天然ガスに大きく依存する欧州大陸諸国は、ドイツ、イタリアなどを中心に、天然ガスのロシアからの購入に大きな支障を生じさせるSWIFT制裁に慎重な姿勢を続けてきた。しかし、ウクライナでのロシアの軍事行動がエスカレートするなか、国際世論もロシアへの批判を一気に強めており、自国への経済的な打撃を甘受しても、もう一段の制裁強化が必要との判断からSWIFT制裁で欧州諸国が一致した。
ちなみに米中央情報局(CIA)によると、ロシアの輸出額は2020年に約3,800億ドルだ。2019年時点の主な品目は石油や天然ガス、石炭、パラジウムなど資源が8割以上である。その輸出相手国は中国が14%、オランダが10%、ベラルーシが5%、ドイツが5%である(日本経済新聞による)。
SWIFT制裁は波及的効果も大きい
SWIFTから当該の銀行を除外する措置は、貿易活動に甚大な影響を与えることから、「最終兵器」とも呼ばれてきた。しかし、SWIFTから銀行が排除されても、貿易がすべて止まる訳ではない。SWIFTでは暗号技術を用いて送金情報を相手先の銀行に送るが、テレックスや電子メールで代替することも可能である。ただしそれは、セキュリティ上の問題から相手先銀行が受け付けない可能性がある。また、手間とコストもかなり高くなることから、SWIFTを通じた決済の一部しか代替できないだろう。
また、ロシアの銀行がSWIFTから除外されても、その他の国際決済システムを使うことも可能だ。例えばロシアのSPFS、中国のCIPSなどだ。ただし、ロシアのSPFSを利用するのはほとんどが国内銀行だという。
一方、SWIFT制裁がとられると、欧米諸国に配慮して、SWIFTを経由しない貿易決済も敬遠する銀行が出てくるだろう。制裁がさらに拡大していくとの見方が出てくると、ロシアに製品を輸出しても代金を回収できないとの見方が広がり、ロシアとの貿易を控える企業も出てくる。また、SWIFT制裁はロシアの通貨ルーブルの流動性と信用力を大きく低下させ、通貨の大幅下落を招く。そうなれば、ルーブル建ての国際決済にも大きな打撃が及ぶだろう。
このようにSWIFT制裁は、その直接的な効果にとどまらず、間接的な効果を含めてロシアの国際決済、そして貿易に大きな打撃となることは間違いない。
「SWIFT制裁」と「コルレス制裁」を組み合わせた「超最終兵器」にはまだ距離
SWIFT制裁の実効性をさらに高めるには、実際の送金・決済業務を停止させる、いわば実弾が必要だ。米国は2月25日に、ロシアの5つの銀行の米国でのコルレス業務(国際資金決済代行)を停止させる措置をとった。現状ではエネルギー関連は除外されているが、この先は、エネルギー関連も例外としない措置へ強化される可能性がある。さらに、米国だけでなくすべての主要国でコルレス制裁を行うことで、ドル以外の主要通貨の国際決済もかなり制限できる。
SWIFTからのロシアの銀行をすべて除外する措置とこの主要国が協調したコルレス制裁を組み合わせることで、ロシアの国際決済、貿易に与える実効性はかなり高まるはずだ。こうした措置こそSWIFT単独制裁の実効性を超える、いわば「超最終兵器」と言えるだろう。
今後、ウクライナでのロシアの動向次第で、先進国は「ブーメラン効果」を覚悟しつつ、段階的に制裁を強化していき、最終的には上記のような最も厳しい措置に達する可能性が考えられる。その場合、ロシアは経済・通貨危機に陥る。そしてエネルギー価格の高騰が、世界経済に大きな打撃を与え、それを予見して世界の金融市場の大きく混乱するだろう。
(参考資料)
"EU, U.K., Canada, U.S. Plan to Cut Some Russian Banks From Swift", Wall Street Journal, February 26, 2022
「対ロシア制裁、決済網排除が再浮上 EUで支持広がる」、2022年2月26日、日本経済新聞電子版
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。