ロシアは中国に軍装備品の提供と経済支援を求めたとの報道
14日にローマでサリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)と中国外交担当トップの楊潔篪(ヤン・ジエチー)共産党政治局員とが会談することが決まった。米国政府は、「ロシアが引き起こしたウクライナとの戦争が地域や世界の安全保障に与える影響を議論する」と説明している。
米国側にとっては、ロシア寄りの姿勢を維持している中国に対して、先進国側の制裁逃れに手を貸さないように強く釘をさす狙いがある。サリバン氏は13日にNBCテレビのインタビューで、「中国政府には、いかなる国であってもロシアの損失を穴埋めすることを許さず、米国は見逃すことはないと伝えている」とし、ロシアへの支援策を講じた場合には中国への制裁を辞さない構えを見せている。
この会談を前にして、複数の米メディアは13日に米政府高官の話として、ロシアは2月24日にウクライナへの全面侵攻に着手した後に、軍装備品の提供を中国に依頼し、また日米欧などによる制裁の影響を緩和するため、追加の経済支援も求めた、と報じている。中国側の反応は明らかになっていない。
会談後に米国政府は、中国のロシア支援に懸念を伝えた、と説明した。
ウクライナ侵攻前に急接近したロシアと中国
中国は、ロシアによるウクライナ侵攻については直接的な評価を避け、両国による話し合いによって解決すべき、との主張を続けている。他方で、先進国による対ロ経済・金融制裁には反対の立場を明らかにしている。
ロシアのシルアノフ財務相は13日に、同国のウクライナ侵攻に対する欧米などの制裁で受ける打撃を緩和するため中国に期待している、と明言したのである。一方で、米国は中国に対して、ロシアへの支援を行わないように強く警告している。中国はまさに、米国とロシアの板挟みにあっている。
北京冬季五輪の開幕に合わせて北京で開かれた2月上旬の、中ロ首脳会談では、共同声明に「中ロの新型の国際関係は冷戦期の軍事・政治同盟を超えている」と明記され、軍事や経済を含めて多面的に関係を深めていく考えが示された。また、習近平国家主席は、北大西洋条約機構(NATO)の影響力増加に対するロシアの懸念を理解すると説明するなど、踏み込んだ発言もしていた。ウクライナ侵攻の直前、両国が急速に接近していたことは明らかだ。
先進国から経済的には封じ込めを受ける中、中国は友好国と新たな市場の開拓を進めている。ロシアは原油、天然ガス、パラジウムなど、中国にはない重要な天然資源を持つ、魅力的な貿易相手国である。
中国は当面「曖昧戦略」か
しかし中国は、現時点ではまだ米国やその他先進国との関係を決定的に悪化させることには慎重なはずだ。先進国によるロシアのSWIFT(国際銀行間通信協会)制裁を、中国は自国への脅しと受け止めた可能性もある。仮に現時点で、制裁対象国のロシアへの明確な軍事・経済支援を理由に、中国の銀行がSWIFTから排除されれば、中国の貿易は成り立たなくなる。米国との関係悪化を受け入れるには、まだ金融・通貨の面での自律性が不足している。
このような点から、中国はロシア、米国のどちらとも距離をとる「曖昧戦略」をしばらく続けるのではないか。制裁措置によって、ロシアは他国との貿易関係が急速に悪化している。そうした中、中国との貿易関係はより強化される方向だ。
しかし中国はこれを、制裁逃れに手を貸しているのではなく、自然な経済活動の結果であるとして、米国からの批判をかわすだろう。ただし、そうした曖昧戦略は長く続かず、米国からのさらなる批判を受けて、姿勢を明確にすることがいずれは避けられなくなるのではないか。
ロシアが急速に「中国化」も
先進国の制裁措置や先進国企業のロシア事業の見直しを受けて、ロシア経済は先進国経済から急速に切り離されていく。ロシア国民は、先進国の製品やサービスを手に入れられなくなっていくのである。また、先進国からロシアへの資金の流れも止まっており、金融面でもロシアは先進国から排除されていく方向だ。
軍事活動は収束しても、先進国の企業や投資家から失った信頼感は、そう簡単には回復しないはずだ。国際通貨基金(IMF)など国際機関からの支援も得られなくなるだろう。ロシアの孤立化と苦境はあらゆる面で避けられない。
そうした中、ロシアが経済、金融面で頼ることができるのは、中国しかなくなる。将来的には、ロシア国内には中国企業と中国製品が溢れ、文化的にも中国の影響力がかなり高まることもあり得るのではないか。「中国化」の進展である。
当面は、米国などとの決定的な関係悪化を回避するために、中国は対ロ政策で「曖昧戦略」を続けるかもしれない。しかし長い目でみれば、中国は経済・金融面でロシアを支援し、両国は新たな勢力圏の中核をなすようになっていく可能性が考えられる。こうした観点から、後に振り返ってみると、ウクライナ侵攻は歴史の大きな転換点だった、との評価に落ち着くのかもしれない。
(参考資料)
「ロシア、侵攻後中国に支援要請=米警戒、高官協議で提起へ」、2022年3月14日、時事通信
「ロシア、中国に軍事支援要請か ウクライナ侵攻巡り」、2022年3月14日、日本経済新聞電子版
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