16日の利払いも実施されたか
完全に確認されたわけではないが、3月16日に期限を迎えたロシアの外貨建て国債の1億1,700万ドルの利払いは、予定通りに実施されたとされている。さらに、21日には6,560万ドルの新たな利払いの期日を迎えたが、中継銀行であるJPモルガン・チェースによって処理された、とロイター通信が伝えている。
支払い手続きは債券保有者にお金が渡る前の次のステップに進んだという。16日には中継銀行であるJPモルガン・チェースが処理し、支払代行機関として国債保有者に資金を分配するシティグループに送金した。今回は、どの銀行が支払代行機関を務めているのかは不明だという。
21日に利払いの期限を迎えたのは、2029年に満期を迎えるドル建て国債である。この国債には、ルーブルでの支払いを認める「ルーブル・フォールバック条項」が付いている。ロシア政府が、16日と同様にドル建てで支払ったのか、あるいはルーブル建てで支払ったのかは未だ明らかでない。ルーブル建てであれば、ロシア国内の銀行口座に入金されるとみられるが、その場合、海外の国債保有者が、その資金にアクセスできるかどうかは分からない。先進国による対ロシア制裁やロシアの資本規制の影響があるためだ。国債保有者の了解なく、一方的にルーブルで支払う場合には、それはデフォルトに当たる可能性が考えられる。
なぜドルでの利払いを履行したのか
16日の利払い期限の直前まで、ロシア政府は、外貨準備の凍結が解除されない限り、ルーブル建てで国債の元利支払いを行うとしていた。海外の国債保有者が嫌がるルーブルでの支払いは、いわば対ロ制裁に対する報復措置の要素を含み、また嫌がらせであった。さらに、先進国に外貨準備の凍結を促す切り札でもあったのだ。
それにも関わらず、ロシア政府が突然、ドルでの利払いを履行したのは不思議である。格付会社によってデフォルト認定がされた場合には、国内での国債利回り上昇やルーブル安が生じ、ロシア経済が一段と打撃を受けることを回避したかったのかもしれない。
しかし、ロシア政府が保有するドルはいずれ底をつく。短期間であってもデフォルトを回避したいという狙いが果たしてあったのか。それとも、先進国が早期に外貨準備の凍結が解除することでデフォルトを回避できるとの読みがあったのか。ロシア政府がそのように期待しているのであれば、その見通しはかなり甘いだろう。
ドルの「隠し玉」も早晩玉切れに
2021年末時点で、ロシア中銀は約6,300億ドルの外貨準備を保有していた。さらに2021年6月時点で、外貨準備のうち16.4%がドルだった。ここから、ウクライナ侵攻前に、ロシア中銀は1,030億ドル程度のドルを外貨準備として保有していたと計算できる。
このうち、米国の中央銀行である米連邦準備制度理事会(FRB)に預けていたドルは凍結された。現在、ロシア政府がドル建て国債の利払いに充てているのは、FRBに預けていなかった、例えば民間銀行の口座に持っていた、いわば「隠し玉」のドルなのだろう。しかし、中央銀行が保有する外貨準備は、信頼性が極めて高く破綻することがない他国の中央銀行に預託するのがほとんどだ。この点から、「隠し玉」の規模は小さいと推察される。
次回のドル建て国債の利払いは3月28日、その次が3月31日である。そして、注目されるのが4月4日に償還期限を迎える20億ドルのドル建て国債だ。この時点で、ロシア政府が20億ドルの国債償還を行う余力が残されているのか注目したい。
デフォルトは避けがたいか
仮にこの国債償還が履行された場合、その次の焦点は、5月25日に移る。米国政府は、ロシアの銀行に対して制裁措置を発動しているが、現時点では、米国の投資家がロシア政府から国債の利払いや償還を受ける道を封じてはいない。
米財務省外国資産管理室(OFAC)は3月2日に、5月25日までの期限付き措置で、米国人がロシアの財務省、中銀、政府系ファンドの発行した債券ないし株式に絡む利子、配当、償還金の受け取りに伴う金融取引を承認したのである。
しかし米国政府がこの措置を延長しなければ、ロシア政府はドル建て国債の元利払いを米国の投資家に対してドル建てで行うことは難しくなるだろう。その場合には、ロシア側はいわゆる不可抗力でありデフォルトにはあたらないと主張するだろうが、格付機関はデフォルト認定を行うのではないか。
このように、ロシア政府は当面のドル建て国債の利払いを履行するとしても、5月にかけてそれを続けることができるかどうかは不確実である。実際のところは難しいのではないか。
(参考資料)
“Investors Stay on Russia Default Watch as Payments Come Due. Russia Coupon Payment on 2029 Bond Processed by JPMorgan: Rtr”, Bloomberg, March 22, 2022
「ロシア、21日期日の国債利払いへ 処理進む=関係筋」、2022年3月22日、ロイター通信ニュース
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