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ルーブルで国債前倒し償還を発表

ロシア財務省は、28日に利払い期限を迎えた外貨建てロシア国債について、1億200万ドルの利払いを完了した、と発表した。ロシアのウクライナ侵攻、先進国からの金融制裁発動後に期限を迎えた外貨建てロシア国債の3回の利払いはすべて履行され、今のところデフォルトは回避されている。

31日には4億4,700万ドルの利払い期限がくる。さらに4月4日には制裁後初めての償還期限を迎える。同日には利払いと合わせて21億2,900万ドルと、今までと桁違いに支払い金額が大きくなるのである。先進国で外貨準備を凍結され、深刻な外貨不足に直面するロシアが外貨建て国債のデフォルトを回避できるかどうか、ここが山場の一つである。

その償還を翌週に控えた29日に、ロシアは4月4日に償還期限を迎える20億ドルのドル建て国債について、ルーブルでの前倒し償還を行うと突如発表した。ロシア財務省は、ルーブル建てでの償還に応じるドル建て国債保有者は、ロシア連邦証券保管振替機関(NSD)にその意向を30日(日本時間午後11時)までに示す必要があると表明している。

奇策の狙いは何か

突然打ち出されたこの奇策の狙いは明らかではない。ルーブルでの前倒し償還に応じない投資家には、 当初の予定通りに 4 4 日にドル建てで国債の償還を実施するつもりなのであれば、 これは残り少ない外貨をできるだけ節約するための措置と考えられる。ただし、ルーブルでの前倒し償還に応じる投資家はかなり少数と見られ、ドル節約の効果はほとんどないだろう。ただし、ドル建て国債を保有する国内のロシアの投資家に、ルーブルでの受け取りを強いる場合には、ドルの節約効果が一定程度生まれる可能性も考えられる。

他方、ロシアが深刻な外貨不足に見舞われる中、今回の措置がもはやドルで国債の利払いや償還を行う意思がなくなったことを意味し、4月4日にもルーブル建てで利払いと償還を行う考えなのであれば、いよいよロシアのデフォルトが現実のものとなる。ちなみに、4月4日に償還を迎えるドル建て国債には、異なる通貨で支払うことが可能との規定はないことから、ロシアがルーブルで支払うことを決め、投資家がそれに応じない場合、30日間の猶予期間でデフォルトが確定する。

「ルーブル安回避」と「デフォルト回避」を同時に狙って混乱に陥っているか

ロシアは、いわゆる「非友好国」に対して、エネルギー関連輸出の代金をルーブル建てで支払うことを要求していた。これは先進国からの制裁を受けた報復措置の一環と考えられるが、それにとどまらず、海外の輸入企業が支払いのためにルーブルを調達することがルーブルの買い支えとなり、為替介入と同等の効果を上げることを狙った措置とも考えられる。

ところが今回のルーブルでの国債償還は、これと逆効果をもたらすことになり得るのである。ルーブルを受け取った海外投資家は、それをドルなどに換えるため、そこでルーブル売りが生じてしまう。

両者の施策はそれぞれ矛盾しているのである。ここにロシアの対応の一貫性のなさと混乱が見られる。「ルーブル安回避」と「デフォルト回避」というお互い相容れない部分を持つ2つの目的を同時に実現しようとして、ロシアの政策は混乱に陥っているとも言えるかもしれない。

デフォルト回避は難しい

実際には、G7はルーブルでのエネルギー関連の輸入代金の支払いを拒否し、自国の企業にもそれに応じないように働きかけた。ルーブルでの前倒し償還は、これに対する報復であり、一種の「嫌がらせ」の措置とも言えるだろう。

4月4日の国債の償還期限で、ロシアはドルで支払って引き続きデフォルトを回避するのか、あるいはルーブルで支払う方針を示してデフォルトに陥るのか、現状ではそのどちらになるかは分からない。

ただし、ロシアが深刻な外貨不足に陥っており、先進国の制裁解除でその状況が改善するめどが立っていない点や、海外投資家が利払い、償還の繰り延べなどの債務リストラに応じる可能性が低い点を踏まえると、ロシアの外貨建て国債のデフォルトは、いずれにしても避けられない情勢と考えられる。

(参考資料)
「ロシア、外貨建て債をルーブルで買い戻しへ 「経済戦争」に対抗」、2022年2月29日、ロイター通信ニュース

 

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。