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ロシアが国債の償還、利払いができずデフォルトの可能性

ロシア政府は、ウクライナ侵攻、対ロシア制裁後、3月16日から3月31日まで利払いをドルで履行してきた。4月4日には償還、利払いを合わせて21億2,900万ドルとなり、年内最大の支払いの山場を迎える。

ただし、この日の償還分については、ロシア政府は事前にルーブル建てでの前倒し償還を行った。ルーブル建てでの受け取りを認める投資家が思いのほか多かったため、4月4日のドルでの償還額は20億ドルから5億5,240万ドルまで減少したことから、予定通りにドルでの支払いが行われ、デフォルトが回避されるとの見方が多かった(コラム、「 デフォルト瀬戸際の状態が続くロシア:4月4日の次は5月27日がXデーか 」、2022年4月1日)。支払い期限は、米国時間の4月4日午前0時(日本時間4月5日午後2時)である。

ところが、ロシア政府が米国の金融機関の口座に保有するドルを使って、ドル建てルーブル国債の償還・利払いを行うことを米国の財務省が阻止している、とブルームバーグ、ロイター通信などが報じている。これは事実上、ドル建てロシア国債のデフォルト(債務不履行)をロシア政府に迫るものだ。ロシア政府の指示で償還、利払いの業務を担うコルレス銀行のJPモルガン・チェースによる送金処理の許可が、米国財務省から得られていないという。

米国の追加制裁措置の一環か

先進国の制裁措置によって、各国の金融機関はロシアの財務省、中央銀行、政府系ファンドとの取引が禁じられている。しかし米財務省外国資産管理室(OFAC)は3月2日に、「債券ないし株式の利子や配当、償還金受け取り」を目的とする取引はその禁止対象から除外する、との通達を出した。この通達のおかげで、3月16日から31日まで、米国の投資家はドル建て国債の利払いを受けることができた。ただしその有効期限は5月25日までであり、米国財務省はその例外措置を延長しない可能性が予想されてきた。

今回の報道が正しいとすれば、米国財務省はこの通達を前倒しで失効させたように見える。詳細は不明であるが、一つの可能性は、米国政府による追加制裁の一環ではないか。ロシア軍が撤退したウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊のプチャなどの都市で、多数の民間人が殺害された疑いが浮上している。そうしたなか、先進各国は、ロシア軍の戦争犯罪を追及する姿勢を強めるとともに、対ロ追加制裁を検討し始めたのである(コラム、「 ロシアの戦争犯罪を追及する先進国と対ロシア追加制裁強化、ロシア側の報復措置 」、2022年4月4日)。米国の投資家への打撃は生じるが、ロシア政府をデフォルトに追い込むことが制裁になる、と米国政府は考えているのではないか。

この状態のまま米国時間の4月4日午前0時を迎えれば、ロシアは期限までにドル建て国債の償還、利払いができなかったことになり、30日の猶予期間後にデフォルトが確定する。

ただし、ロシアがいずれデフォルトに陥ることは、予想されてきたことであり、それによって世界の金融市場が大きく混乱する可能性は大きくないだろう。デフォルトは投資家の信頼を大きく損ねるものだが、ロシアの場合には、既に一方的にルーブルでの支払いを宣言するなどして、投資家からの信頼は相当損なわれている。さらに、通常デフォルトの格付けを行うことでデフォルトを認定する主要格付け機関は、ロシアの証券の格付けを停止する方針を示しており、30日の猶予期間後の5月上旬に、デフォルトの認定を行わないと見られる。

そして、ロシア側は、利払いを行う意思があるにもかかわらず、米国の不当な措置に阻まれた場合、それはデフォルトに当たらない、と主張し続けるだろう。ロシア国債はデフォルトに陥ったのか、陥っていないのか確定しない状況が長く続くことになるのではないか。

ただしそれは本質的な問題ではない。いずれにしても海外投資家からの信頼性を既に大きく失ったロシア政府は、海外からの資金調達の道を長く閉ざされ、将来の経済成長が阻まれる可能性が高いのである。

 

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。