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5月のFOMCでは0.5%の大幅利上げと量的引き締め(QT)開始の可能性

次回5月3・4日開催される米連邦公開市場委員会(FOMC)では、0.5%ポイントの大幅な利上げ(政策金利)が実施されるとの見方が、金融市場ではほぼコンセンサスとなってきた。さらに5月のFOMCでの注目点となっているのが、0.5%ポイントの大幅な利上げと同時に米連邦準備制度理事会(FRB)のバランスシートを縮小させる量的引き締め(QT)が実施されるのか、どのようなペースでバランスシートを縮小する方針が示されるのか、が新たな注目点として浮上してきた。

4月5日にカンザスシティー連銀のジョージ総裁は、「0.5%ポイントの利上げは、検討しなければならない選択肢の一つ」と語った。さらに、「バランスシートが政策金利の上昇とともにどう推移するかを考えることを、私は重視している」とした。これは、利上げと8兆9,000億ドルまで膨れ上がったFRBのバランスシートを縮小する施策とを結びつけて検討し執行していくことの必要性を問うたものである。

他方、同じ4月5日に、FRBのブレイナード理事は、ミネアポリス連銀での講演用のテキストで、「現時点において、インフレは高過ぎる状況で、上振れリスクにさらされている」と指摘し、「インフレやインフレ期待の指標で正当化されれば、FOMCには一段と強力な行動をとる用意がある」とした。これは、本来ハト派色の強い同氏が、インフレファイターの姿勢を強めていることを裏付けている。

異例なペースでの金融政策は正常化へ

ただしその発言は、5月のFOMCで0.5%ポイントの大幅利上げを支持する考えを示唆しているだけではない。ブレイナード理事は、「一連の利上げを通じて整然と、また早ければ5月のFOMCで急速なペースでのバランスシート縮小を開始する(shrink balance sheet rapidly as soon as May)ことで、金融政策の引き締めを続ける」と述べたのである。さらに、急速なペースでのバランスシート縮小について説明を付け加え、「過去の景気サイクルと比べて回復がかなり力強く、かつ速いペースで進んでいることを踏まえれば、バランスシートは過去の回復局面よりもかなり急速なペースで縮小すると想定する。2017-19年と比較して縮小額の上限がかなり大きくなるほか、縮小期間も大幅に短くなる」との見通しを示したのである。

前回の利上げ局面では、2015年12月に利上げが開始された時から22か月後、つまり2年近く経過してからバランスシートの縮小が開始されたが、今回は今年3月の利上げからわずか2か月後にバランスシートの縮小が開始される可能性が高まっており、利上げペースと共に前回の利上げ局面とは比べものにならないほどのペースで、金融政策の正常化が進められる方向である。

高まる金融市場と景気の不確実性

FRBはウクライナ問題によってさらに増幅された物価上昇率の高まりに対して、金融政策の対応が後手に回ることを強く警戒している。そこで、5月は0.5%ポイントの大幅な利上げとなる可能性が高い。それ自体、近年では異例なことであり、2000年以来20年以上もの間、0.5%幅の利上げは実施されてこなかった。

それでもなお、FRBのインフレへの警戒は緩和されない。できれば0.75%幅で利上げを実施したいと考えるFOMC参加者も出てきている可能性もありえるが、さすがに近年では前例のない0.75%幅の利上げが金融市場にどのような影響を引き起こすかについては不確実性が高く、大きなリスクがある。そこで、0.5%幅の利上げとバランスシートの急速な縮小とを結びつける急速な正常化策のパッケージが、FOMC内で支持を集めてきているのではないかと推察される。

ただし、FRBがバランスシートをどの程度のペースで縮小すると、長期金利がどの程度上昇するかといった点については、安定した関係はない。0.5%幅の利上げとバランスシートの急速な縮小開始を重ねた際にも、金融市場は予想外の反応を示すかもしれない。実際、ブレイナード理事の発言を受けて、5日の米国市場では10年財務省証券利回りは2.6%台まで一気に上昇した。これは「ブレイナード・ショック」とも呼ばれた。6日の東京市場では10年国債利回りが+0.24%と日本銀行が設定する変動レンジの上限である+0.25%に接近するとともに、日米長期金利差の拡大から、ドル円レートは一時124円台まで円安が進んだのである。

物価高騰への対応で前傾姿勢を強めるFRBの政策は、金融市場にとって不確実性を伴う大きなリスクとなっている。また、近年では例のない急速な利上げは、景気失速につながる「オーバーキル」のリスクもはらんでいる(コラム「 FRBは0.5%利上げへ。米国経済はグロース・リセッションかハードランディングか 」、2022年3月30日)。

(参考資料)
「ブレイナード理事、5月にもバランスシートを急速に縮小開始へ」、2022年4月5日、ブルームバーグ

 

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。