5月FOMCでは0.5%の利上げと急速な量的引き締め開始の可能性が高まる
米連邦準備制度理事会(FRB)が4月6日に公表した3月米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事要旨では、物価高騰への対応として、参加者が0.5%の大幅な利上げ(政策金利引き上げ)を既に検討していたことが明らかになった。ただし、米国金融市場の安定を見極めるため、実際には0.25%の利上げが賛成多数で決まった。
しかし、その後も金融市場の安定は揺らいでいないことから、5月の次回FOMCでは、0.5%幅の利上げが実施される可能性が高まっている。0.5%幅での利上げは1995年以来のこととなる。議事要旨には、「多くの参加者は、インフレ圧力が高止まり、あるいは増大した場合、向こう複数回の会合で1回もしくはそれ以上の0.5%幅での利上げが適切になる、との認識を示した」と記述されている。
さらに、3月FOMCではバランスシートの縮小計画、つまり量的引き締め策(QT)についても、参加者が合意に近づいていることが明らかにされた。5月のFOMCでは、0.5%幅の利上げと量的引き締め策(QT)の開始が同時に決まる可能性が高まっている。
最大950億ドルを毎月縮小しMBSは売却も
議事要旨によると、参加者は米国債600億ドル、住宅ローン担保証券(MBS)350億ドルの合計で最大950億ドルを毎月縮小することを検討した。前回の量的引き締め局面では、2017年から2019年にFRBの保有資産残高は8,000億ドル縮小されたが、この時の2倍程度のペースで資産縮小を進めることが検討されているのである。
FRBは、保有資産から住宅ローン担保証券(MBS)をなくし、国債だけにすることを正常化の最終形と考えている。そのために、住宅ローン担保証券(MBS)については、償還見合いでその保有を削減していくだけでなく、満期前の売却の可能性も検討している。ブレイナード理事は5日の講演で、バランスシートをランオフ(償還される債券を再投資せずに保有残高を減らす)させる計画を示唆していた。
また前回とは異なり、現在FRBは、財務省短期証券(T-bill)を3,260億ドル以上と大量に保有している。これをロールオーバーせずに償還させれば、迅速にバランスシートの縮小が可能となるのである。ただし会合では、長期国債の償還を優先し、その残高が600億ドル未満になればT-billを償還する考えが示されている。
FRBは市場の安定に自信を深める
QTについて、FOMC参加者が懸念しているのは、それが短期金利上昇などを引き起こさないか、という点である。前回の資産縮小の局面では、2019年9月に思わぬ問題が発生したのである。資産の縮小を進め、銀行の準備預金の水準が大幅に低下する中で、資金のひっ迫が生じ、短期の借り入れコストが跳ね上がった、という事態を招いたことだ。その際にFRBは、緊急の流動性供給を余儀なくされたのである。
議事要旨では、ロシアによるウクライナ侵攻後も金融市場が相対的に落ち着きを保っていることについて、常設レポ・ファシリティーや連銀窓口貸し出し(ディスカウントウインドウ)、中銀間のドルスワップ協定といったFRBが導入してきた流動性の供給制度があるためだと説明されている。これらが、量的引き締め策が実施される中でも、市場の安定維持に大きく貢献するとの認識がされているのである。
その中でも特に重要なのが常設レポ・ファシリティーである。これは、FRBがプライマリーディーラー(米政府証券公認ディーラー)から米国債、エージェンシー債、エージェンシーMBSを担保として受け入れ、その代わりに短期資金をオーバーナイトのレポ取引という形で供給する枠組みである(コラム「 FRBが新たな資金供給の枠組み(SRF)を開始:市場機能低下の懸念も 」、2021年7月30日)。
今回の金融引き締めは未知の領域
これは、準備預金が大幅に落ち込んだ場合でも、外的ショックへの緩衝装置として存在するとしている。それは未だ利用されてはいないが、その制度が存在するだけで、銀行は資金の調達が困難になるとの不安を抱かず、実際に資金をとり急がないため、市場の安定が確保されているのである。
このような、金融市場安定確保に向けた制度整備が進んだことに自信を深めたFRBは、大幅利上げと急速な量的引き締め策(QT)を同時に進めようとしている。
しかし、それらはまだ試されたことのない未知の領域で、不確実性がかなり高い政策であることは確かである。思いがけない経済や金融市場への悪影響が生じ、物価高騰への対策を最優先する現在のFRBの姿勢に突然ブレーキがかかる事態も考えておかねばならないだろう。
それこそが、長期金利の低下、ドル下落など、世界の金融市場の大きなターニングポイントとなるのではないか。
(参考資料)
"Fed Signals Faster Pace of Rate Increases, Likely Bond Runoff", Wall Street Journal, April 7, 2022
"Fed Minutes Flag Value of Liquidity Tools, Sketch Balance Sheet Plans", Wall Street Journal, April 8, 2022
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