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G20財務相・中央銀行総裁会議は波乱の展開

4月20日にワシントンで開催されたG20(20か国・地域)財務相・中央銀行総裁会議は、事前に予想されていた通りの波乱の展開となった。同会議にはロシアからシルアノフ財務相がオンラインで参加したが、同氏が発言を始めると、先進国中心に複数の財務相と中銀総裁がその場から退出した。その顔触れは、ウクライナのマルチェンコ財務相、欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁、パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長、イングランド銀行(英中銀)のベイリー総裁、ジェンティローニ欧州委員(経済担当)、オランダのカーフ財務相らである。また、オンラインで参加していた一部当局者は、ロシア当局者の発言中に自身のカメラをオフにしていたという。

G7(先進7か国)は、主要な国際会議からロシアを追放することで同意しており、今回のG20財務相・中央銀行総裁会議でもロシアの参加を認めないよう事前に強く働きかけていた。

最終的にロシアが参加することを阻めなかったことから、G7での合意を尊重する姿勢とロシアのウクライナ侵攻への抗議の姿勢を表すため、先進各国は今回の退出を事前に申し合わせていた。他方、日本の鈴木財務相は退出しなかった。

先進国と新興国との間の軋轢によって、G20で今まで議論してきたコロナ問題、最貧国の対外債務問題、そしてロシアのウクライナ侵攻後により深刻となったエネルギー・食料品価格高騰の問題、低所得国での食料不足の問題など、山積する世界経済の課題に関する議論は進まなかった。そして、共同声明が出されない異例の事態となった。

分裂するG7とG20

他方、同日に開催したG7財務相・中央銀行総裁会議は、ロシアのウクライナ侵攻を強く批判するとともに、ロシアのG20会合への参加は遺憾、とする共同声明を出した。

G7とG20の事実上の2重標準(ダブルスタンダード)は、以前から進んでいた。バイデン政権はG7を対中国政策で結束する場と位置づけてきた。他方で、中国も参加するG20の場では、G7とは別のテーマを議論する傾向が強まっていったのである。ロシアのウクライナ侵攻によって、G7とG20のこのダブルスタンダード化は一段と進んだのである。

G20に参加する主要新興国の多くも、ロシアのウクライナ侵攻自体を支持している訳ではないが、ロシアを議論の場から排除する先進国の姿勢に反発し、また、対ロ経済制裁には慎重な国が少なくない。今回の問題がきっかけとなり、先進国が主導する国際秩序全体に対する反発が新興国から吹きだす可能性もあるだろう。

対話を続けることは重要

G20に対する世界の期待が高まったのは、リーマンショック(グローバル金融危機)後のごく一時期だけだった。欧米が金融危機に直面する中、中国の財政出動など新興国の政策対応に期待する機運が強まったのである

しかしそれは長く続かず、その後G20の形骸化は着実に進んでいった。そして、中国、ロシアの問題が浮上するに及んで、G7とG20の分断、G20内での先進国と新興国の分断が一気に進んだのである。

今後、G20は一段と機能不全に陥るとともに、仮に開催されても先進国と新興国の対立をより浮き彫りにする場となってしまいかねない。その延長線上にあるのは、政治、経済、金融などあらゆる面で先進国と中国あるいは中国・ロシアが主導する新興国との分断化が進む新しい世界である。

ただし、世界の安定と安全の観点からは、そうした分断はなんとか避けることが必要である。それには両陣営が対話を途絶えさせずに続けることが、まずは求められるだろう。

 

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。