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野村総合研究所と
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日本銀行は4月26日に、長期金利の上昇を強く抑えるために先週から実施している連続指値オペを、27日と28日にも延長することを発表した。10年国債利回りが、変動レンジの上限である+0.25%近傍で高止まりしていることへの対応である。

ただし重要なのは、この両日は、日本銀行の金融政策決定会合の当日であるということだ。これは、日本銀行が今回の決定会合で、0%±0.25%程度に10年国債利回りをコントロールするイールドカーブ・コントロールの運用をより柔軟化し、10年国債利回りの上昇を一定程度容認するといった政策方針の修正を実施しない、とのメッセージと解釈できるのではないか。

一段の物価高につながる円安が急速に進む中、企業などからは円安進行を促している日本銀行の金融緩和姿勢に対して批判が高まっている。企業や国民からの批判をかわし、また政府との関係悪化を回避するために、日本銀行はいずれ長期金利の上昇を容認し、為替に配慮する姿勢を見せるのではないかと考えられる。しかしそれが、今回の決定会合で決まる可能性は低いだろう。

先週からの連続指値オペが27・28日の決定会合前までに設定されていたことから、日本銀行は決定会合でイールドカーブ・コントロールの運用方針を修正する意図があるのではないか、との観測も市場に浮上していた。そうした期待が強く織り込まれると、実際に政策方針に修正がない場合、為替市場で大きく円安が進む可能性がある。日本銀行は、そうしたリスクに対応するために、連続指値オペの延長を決めることで、政策方針修正への市場の期待を事前に封じ込めることを狙ったのではないか。

連続指値オペの実施は現場が判断して決めるオペレーションであり、政策決定会合での政策決定とは関係がないというのが建前であるが、実際には、両者は連動していると見るべきだろう。

また、事前に強く否定していたマイナス金利政策の導入を2016年1月に決めたことで、金融市場、金融機関から日本銀行は強く批判された。この時の経験から、日本銀行は、いわゆる「サプライズ戦略」を封じたと考えられる。仮に27・28日の決定会合で日本銀行がイールドカーブ・コントロールの運用方針を修正する考えであれば、事前にメディアを通じてそれを伝えている可能性が高い。

決定会合直前までそうした報道が全く聞かれないのは、今回の決定会合では政策方針の修正などを実施しないことを意味していると考えられる。

 

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。