4月の米国株は歴史的な大幅下落
4月29日の米国株式市場で、ダウ平均株価は前日比939ドル安、約3%の大幅下落となった。下落幅は一時千ドルを超えた。ダウ平均株価が千ドル前後の大幅下落となったのは、過去1週間のうち3回にも上る。また、ハイテク株の比率が大きいナスダック総合株価指数も約4%下落した。1~3月期決算や弱い収益見通しが嫌気されたアマゾンが14%超急落し、ハイテク株を中心に売りが強まったのである。
決算以外にも、3月の米PCE(個人消費支出)価格指数も材料とされた。同指数は前月比+0.9%と、2005年9月以来の高い上昇率となった。その結果、インフレ懸念と米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げ(政策金利引き上げ)加速観測から米10年国債金利は、前日より約0.1ポイント高い2.93%台となった。この長期金利の上昇も、ハイテク株を中心に株価下落を促したのである。
4月月間で見ても、米国株の下落は目立っている。ナスダック総合指数は月間ベースで13%下げたが、この下落率はリーマン・ショック時2008年10月の18%下落以来の大幅な下げ幅である。ダウ平均も同5%下落したが、ダウ平均が4月に下落するのは、2005年の3%下落以来と17年ぶりのことだ。4月は米国の確定申告による税還付金が支払われるタイミングで、本来、株式が比較的買われやすいという季節性がある。
10年国債金利は4月に0.6%ポイント上昇し、月間での上昇幅は2009年12月以来の大きさとなった。他方、4月には為替市場でドル高も進んだ。主要通貨に対するドル指数は月間では4.8%上昇と、2015年1月以来の高い伸びを記録した。ドル円レートは月間で6.4%上昇と、2016年11月以来の上昇である。4月のドル指数の動きとドル円レートの動きを比較してみると、足元での歴史的な円安ドル高は、円安よりもドル高の性格がより強いことが分かる。
米国の利上げ姿勢前傾化による円安はなお道半ば
このように4月の米国市場では、異例なペースで株安、債券安(長期金利上昇)、ドル高が進んだ。しかし、米国市場が本当に大きく混乱する場合には株安、ドル安、債券高となるはずであることから、未だそのような危機的な状況に至っていないのである。
異例なペースで株安、債券安、ドル高が進む背景にあるのは、3月から4月にかけて、FRBの利上げ姿勢が急速に前傾化したことだ。米国株の大幅下落が続き、金融市場が大きく不安定化すれば、FRBの利上げ姿勢が軟化し、それが長期金利の上昇(債券安)、ドル高の流れに歯止めを掛けるだろう。
ただし、現状ではそこまで株価が不安定化したとは言えない。おそらく、FRBが急速な利上げ姿勢を修正するには、米国市場の動揺がさらに深まること、米国景気に明確な減速の兆候が見られ、物価上昇率が明確に下落に転じることが必要条件となるだろう。そこまでにはなお数か月の時間が必要と見ておきたい。
FRBの利上げ姿勢の前傾化と米国長期金利の急上昇が、3月以降の円安ドル高進行の最大の原動力となってきた。現状はそのプロセスの道半ばをやや過ぎたと見られるが、なお円安ドル高の途上にあると考えられるだろう。1ドル140円~145円程度の水準を夏から秋にかけてのさらなる円安進行の目途と現状では考えておきたい。
その間はなお、日本では円安進行に対する懸念が高まり、大幅な金融緩和姿勢、特に長期金利の上昇を厳格に止める政策姿勢について、日本銀行は多くの批判を浴び続けることになるだろう。
(参考資料)
「NYダウ、一時1000ドル安 景気懸念で売り加速-ナスダック、月間下落率は2008年以来」、2022年4月30日、日本経済新聞電子版
プロフィール
-
木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。