中国は2020年春以来最も深刻な景気減速に
中国経済は、2020年春の新型コロナウイルス問題発生直後以来、最も深刻な景気減速に見舞われている。それは、ウクライナ情勢、米国の急速な金融引き締めと並んで、世界経済の大きなリスクの一つとなっている。
中国の景気減速は、多くの要因が複合されて生じているものだ。昨年には、共同富裕の理念のもと政府が進めた民営企業への統制強化が、ハイテクや教育といった高成長セクターに大きな打撃を与えている。さらに中国経済の主なけん引役である不動産セクターは昨年後半に急速に悪化し、不動産不況の様相を強めた。中国の住宅市場は、多くの地方政府が緩和策を打ち出しているにもかかわらず、依然として深刻な低迷が続いている。さらに不動産不況は、政府の景気対策の効果を損ねている面もある。政府はインフラ投資拡大に向けた新たな方針を発表したが、地方政府の主な財源である土地売却が地価下落の影響で難しくなっているため、地方政府の支出が思ったように進んでいない面があると見られる。加えて、世界的なエネルギー価格の高騰も中国経済の逆風となってきた。
さらに今年に入ってからは、新型コロナウイルスの感染再拡大と政府による厳しい感染封じ込め、いわゆる「ゼロコロナ政策」が経済活動の強い逆風となっている。それは4月に入ってから一層顕著となった。中国国家統計局が発表した4月の製造業と非製造業の購買担当者景気指数(PMI)は、いずれも2か月連続で低下し、2020年に新型コロナの感染が拡大し始めて以降で最も低い水準となった。
また調査会社カウンターポイント・リサーチによると、1-3月期のスマートフォン販売台数は前年同期比で14%の減少となった。さらに、中国乗用車協会によると、4月第1~3週の新車販売台数は39%減となっている。
中国経済の不振は、海外にも大きな影響を及ぼすが、それが顕著に表れているのが商品市況だ。ロシアのウクライナ侵攻の影響で、世界的にエネルギーや食料の価格は高騰している。しかし、中国での需要に大きな影響を受ける商品、特に工業用金属の価格は上昇していない。例えば鉄鉱石は過去1か月で約10%下落し、アルミニウムや銅も同じ程度下げている。
拡大するアジアと米国の経済・金融格差と資金フロー・金融市場混乱のリスク
中国経済の減速は、アジア地域の周辺国の経済に既に大きな影響を与えている。韓国の中国向け輸出は4月に前年同月比3.4%減少し、輸出全体の伸びを1年以上ぶりの低水準にまで押し下げた。日本では、3月の中国向け輸出額は前年同月比+2.9%とプラスを維持しているが、数量指数でみると同-13.0%と大幅減少となっており、日本経済に悪影響を与えている。
米国経済がなお堅調を維持する一方、中国経済の減速、その影響を大きく受けるアジア地域の周辺国の経済の不振といったギャップが広がっている。それは、両地域の金融政策の差を拡大させ、日本を含むアジア地域から米国への資金のシフトをもたらしている。
両地域の経済環境の異例のギャップは、米中長期金利の逆転や歴史的なドル高円安の急進など、異例の事態を既に生じさせているのである(コラム「 世界経済の分断を象徴する米中長期金利の逆転とドル高円安 」、2022年4月11日)。この状況がさらに進めば、日本を含むアジアの金融市場から資金が一気に米国に移動する形で、アジア金融市場の混乱が生じる可能性も出てくるのではないか。
(参考資料)
"China's Economic Troubles Won't Stay at Home", Wall Street Journal, May 7, 2022
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