物価高への対応ではFRB頼みでありFRBに責任転嫁も
バイデン米大統領は5月31日に、パウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長をホワイトハウスに迎え、会談に臨んだ。バイデン氏がパウエル議長と対面で会談するのは、大統領就任以来3度目のことである。会談での議論の中心は、物価高騰への対応だ。今回の会談から、1984年に当時のレーガン大統領がボルカーFRB議長と会談した状況を想起した向きもいるようだ。当時も現在と同様に、選挙を控えて政府は物価高騰に頭を悩ませていたのである。
今回の会談でバイデン大統領は、物価上昇との闘いは自身の最優先事項と強調したうえで、その責務は主に連邦準備制度の管轄であると強調した。そして、「FRBを尊重し、FRBの独立を尊重する」として、金融政策に政治介入しないことを約束した。
物価高に対する米国民の不満は高まる一方であり、それがバイデン政権の支持率を大きく低下させている。この状況の下では、11月の中間選挙で民主党はかなりの劣勢に立たされる可能性がある。そこでバイデン政権は、物価高対策の一環として、原油備蓄の放出を実施してきたが、原油価格、物価に目立った効果を与えていない。そこで物価高対策では、FRB頼みの姿勢を強めざるを得なくなっているのである。
ただし、バイデン政権は単純にFRBを頼みにしているだけではない。一方で、物価高対策の責任をFRBに転嫁する狙いも透けて見える。 ただし、物価高に対する国民の不満の矛先がFRBに向けられ、中間選挙でのバイデン政権の逆風が和らぐことはないだろう。高い物価上昇率が続けば、中間選挙ではバイデン政権に対する厳しい審判が下される。さらに、その時点で景気減速傾向も生じていれば、経済はスタグフレーション的な様相を強め、まさに政権には最悪のタイミングで選挙を迎えることになるかもしれない。
現状では中間選挙に向けて政府とFRBの間に軋轢はない
選挙が近づくと、一般に、政府と中央銀行の間の軋轢は強まりやすくなる。政府は選挙への影響も意識して景気浮揚を重視し、中央銀行の政策に緩和バイアスの金融政策を期待する。他方、物価の安定をより重視する中央銀行は、政府の金融緩和要請を撥ねつける傾向がある。ところが、現状では、バイデン政権も物価高対策としてのFRBの急速な金融引き締めを支持していることから、両者間に軋轢はない。
ただし、11月の中間選挙までにまだ時間があり、その間に、経済・物価動向、金融情勢がどう変わるかは分からない。物価高騰が続く中で、景気減速が明確になる、あるいは金融市場が混乱する場合、バイデン政権とFRBとの間に政策を巡って軋轢が生じる可能性もあるだろう。
中間選挙は、FRBが金融引き締め策を見直す時期、いわゆるターニングポイントの時期と重なる可能性もある。この点からも、政府と中央銀行の関係がこの時期に微妙になることも考えられるとことだ。
FF金利2.25%~2.5%が政策のターニングポイントか
現状0.75%~1.0%の米国の政策金利、つまりFF金利が、この先2.25%~2.5%まで上昇すれば、FRBの金融引き締め姿勢はより慎重となる可能性が考えられる。2.25%~2.5%の水準が重要であるのは、以下の3つの理由による。
第1に、2.25%~2.5%は前回の利上げ局面でのピークの水準であり、今後市場の期待インフレ率が低下し、当時の2%強に達すれば、この水準で景気の抑制効果が明確に出てくる可能性がある。
第2に、2.25%~2.5%は、FRB内で考えられている中立金利、つまり景気に中立な水準のコンセンサスである。その水準まではある意味目をつぶって急速に政策金利を引き上げるが、それ以降は経済・物価、金融市場を睨みながら慎重な金融引き締め姿勢に転じることが見込まれる。
第3に、FRBは、短期金利と18か月の国債金利の長短金利差に注目し、そこが逆転すると金融引き締めが行きすぎ、先行き景気を悪化させるリスクがあることを示す、と考えている。現在、18か月の国債利回りは2.2%程度である。この水準が今後も維持される場合には、FF金利が2.25%~2.5%まで引き上げられれば長短金利は逆転し、FRBは金融引き締めににわかに慎重になる(コラム「 悪い円安は一巡との判断はまだ早計。注目は今秋か 」、2022年5月26日)。
今秋は米国の政治、経済、金融市場の観点から年内最大の山場に
このように、FF金利が2.25%~2.5%まで引き上げられると、米国経済、金融市場に変調が見られ、また、FRBが金融引き締めに慎重姿勢に転じると考えるとの目途を持つことが可能ではないか。ちなみにFF金利が2.25%~2.5%まで引き上げられる時期は、今年の9月ないしは11月の米連邦公開市場委員会(FOMC)と現時点では見込まれる。それ以降も金融引き締めは続くとしても、そのペースはかなり落ちる可能性がある。
こうした金融引き締め姿勢の修正は、米長期金利の低下を通じて、円安ドル高の流れも変えるだろう。こうした金融政策と金融市場のターニングポイントが、中間選挙のタイミングと重なってくる可能性がある。この時期は、米国の政治、経済、金融市場の観点から、今年最大の山場となるのではないか。
(参考資料)
"Biden, in Rare Powell Meet, Seeks to Deflect Inflation Blame", Bloomberg, May 31, 2022
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