9月に政策金利は中立水準近傍に
米連邦準備制度理事会(FRB)は現在急速な金融引き締め策を続けている。その金融政策の今後が、世界経済や金融市場を大きく左右することになるだろう。特に、9月の連邦公開市場委員会(FOMC)への注目が高まってきている。そこがFRBの金融政策の転換点になる可能性があるためだ。
5月に続き、6月及び7月のFOMCでは3回連続で0.5%の幅で利上げ(政策金利引き上げ)が実施されるとの見方が、金融市場ではコンセンサスとなっている。それは、簡単には揺らぎそうにない。
他方、9月のFOMCについては、まだ見方は固まっていないが、FF金先市場では、0.25%の利上げはほぼ100%織り込まれており、0.5%の利上げを徐々に織り込む状況になっている。こうした動きが、足元での米国長期金利の上昇と対ドルでの円安進行の大きな要因の一つになっているとみられる。
なぜ9月のFOMCが重要であるかというと、6・7月のFOMCでの利上げ幅が0.5%で、9月が0.25%であれば、FF金利の水準は2.0%~2.25%、9月も0.5%であれば、FF金利の水準は2.25%~2.5%となる。いずれにしてもFOMCのメンバーが中立金利と考える水準辺りまで金利は引き上げられることになるからだ。
FRBは、中立水準まではできるだけ早く政策金利を引き上げることを目指している。それは例えば、セントルイス地区連銀のブラード総裁の5月末の発言に表れている。同氏は、経済に何が起きようとも、自身が中立金利とみなす2%に政策金利が到達することが重要だ、と語った。また、インフレを抑制し、10年間に及ぶ長期的な問題を抱え込まないで済むよう、金利をできるだけ早く引き上げたい、としている。
9月で政策はいったん仕切り直しか
しかし9月にFF金利が中立水準近傍にひとたび達すれば、FRBは立ち止まって経済、物価、金融市場の動向を改めて点検し、先行きの政策をじっくりと考えるようになるだろう。9月はそうしたタイミングとなる。
9月の利上げ幅が0.25%であれば、その時点で利上げペースを鈍化させるFRBの意図が金融市場に伝わることになる。また、9月の利上げ幅が0.5%であれば、それ以前とペースは変わらないが、9月以降の利上げのペースが鈍化する可能性を、FOMC声明文あるいは議長記者会見で市場に伝える可能性が出てくるだろう。
9月までに米国の景気減速の兆候が広がる一方、物価上昇率の低下傾向が鮮明になっていれば、FRBが9月で利上げを打ち止めにし、当面様子見姿勢に転じる可能性も出てくるだろう。他方で、経済、物価次第では、9月の次となる11月のFOMCでも、0.5%幅の急速な利上げを続ける可能性も出てくる。ただしその場合には、2023年に米国経済がリセッション(景気後退)に陥る可能性が高まるのではないか。
9月のFOMCに注目するメンバーの発言が相次ぐ
実際、9月のFOMCに目標を定めたかのようなFOMCメンバーの発言も聞かれるようになった。今年のFOMCでの投票権を持つクリーブランド地区連銀のメスター総裁は2日の講演で、「9月のFOMCまでに、物価統計でインフレ率の低下傾向を裏付ける有力な証拠が得られれば、利上げペースは鈍る可能性がある」と指摘した。
一方、5月下旬のブルームバーグの報道では、アトランタ地区連銀のボスティック総裁は、「私の基本的な考えは、9月に(利上げを)停止することが理にかなうかもしれない、というものだ」と語り、やはり9月のFOMCに焦点を定めていることを示したのである。
世界の金融市場の関心は、ますます9月のFOMCに注がれるようになっていくだろう。そこは、世界の経済、金融市場の将来を決める、分水嶺となるかもしれない。
(参考資料)
“Derby’s Take: Some Fed Officials See September as Key Moment for Monetary Policy”, Wall Street Journal, June 7, 2022
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