24年ぶりの円安水準に
先週末に発表された米国の物価統計が上振れたことを受けて、米国では米連邦準備制度理事会(FRB)による利上げの加速観測が再び高まっている。これは株価下落を生じさせるとともに、米長期金利を押し上げている。さらに米国での利上げの加速観測と米長期金利の上昇は、為替市場で円安ドル高の傾向を一段と強めている。
13日の東京市場で、ドル円は2002年以来となる135円台に乗せた。さらに、2002年の高値である1ドル=135円15銭をも超え、1990年代以来24年ぶり、つまり四半世紀ぶりの円安水準に一時達したのである。
日銀のYCCの信頼感は揺らいだか
他方、米国の長期金利上昇が国内長期金利にも上昇圧力をかけ、日本の10年国債利回りは一時0.255%と、日本銀行がイールドカーブコントロール(YCC)のもとで変動レンジの上限としてきた0.25%を上回った。日本銀行は毎営業日指値オペを実施し、10年国債利回りが変動レンジの上限を超えないように、4月以降強力な体制を築いてきた。
それにもかかわらず、10年国債利回りが0.25%を超えたのはかなり驚きである。それだけ、日本の国債市場も米国国債市場の影響を強く受けていることを意味していよう。指値オペを実施している時間帯では利回りは0.25%を上限に抑えることはできても、それ以外の時間帯では、0.25%を上回る水準での取引が、今後常態化してくる可能性もあるだろう。その場合、10年国債利回りが0.25%を超えている安値の水準で国債を買い入れ、指値オペでより高い価格(低い利回り)で日本銀行に国債を売却することで、金融機関は利益を上げることができるようになる。日本銀行の指値オペがそうした機会を金融機関に提供するようになることは問題である。
日本銀行は慌てて、長期国債を14日に追加買い入れ(5年超10年以下5,000億円)すること、いわゆる臨時オペの実施を発表した。しかし、長期金利上昇抑制に関する日本銀行の影響力に対する市場の不信感は、これで大きく高まってしまったのではないか。そして、YCCという制度に対する市場の信頼感も、大きく揺らいでしまったのではないか。
YCCの柔軟化も
今後も米国の長期金利上昇が続くようであれば、日本銀行は国内の長期金利の上昇を一定程度容認する姿勢に転じる可能性が出てきたのではないか。現在実施している毎営業日指値オペを撤廃することを向こう数回の金融政策決定会合のいずれかで決定したうえで、10年国債利回りが0.25%に接近しても、0.25%の指値オペを必ずしも実施しない形で、0.25%を上回る10年国債利回りを緩やかに容認することも考えられるところだ。
さらに、市場の攻撃対象ともされる10年国債利回りの変動レンジを撤廃し、随時指値オペを使うことで10年国債利回りの大幅上昇はその都度けん制していくような、より柔軟な制度にYCCを修正していく可能性も考えられるだろう。
長期金利の緩やかな上昇を一定程度容認するYCCの柔軟化は、円安進行に多少歯止めをかけることになるだろう。しかし、円安進行の主因は米国の金融引き締めの加速観測にあることから、それが変わらないのであれば円安の流れは変わらない。
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