世界の輸出に占める中国のシェアは過去3年間で上昇
先進各国は、経済安全保障の観点から中国製品への依存度の低下を図っている。日本では、先般成立した経済安全保障推進法のもとで、半導体、レアアース(希土類)など重要物資のサプライチェーンの確保が今後進められ、これらの品目の中国依存度の引き下げが目指されている。米国ではより広範囲に、米国経済と中国経済の関係を低下させる「デカップリング」が志向されている。さらに、中国自身も先進国との貿易関係を低下させることを志向しているのである。制裁措置によって先進国とのサプライチェーンが突然遮断されれば、中国経済に甚大な打撃が及ぶためだ。
ところが実際のところは、先進国を中心に各国経済は、中国製品への依存度を一段と強めているのである。国連貿易開発会議(UNCTAD)のデータによると、世界の財(製品)輸出額に占める中国のシェアは、2019年の13%から2021年には15%へと上昇した。他方で同時期に、米国のシェアは8.6%から7.9%へ、日本のシェアは3.7%から3.4%へ、ドイツのシェアは7.8%から7.3%へとそれぞれ低下している。各国共に、中国にシェアを奪われている形だ。
コロナ問題が中国製品の輸出拡大を後押し
世界に占める中国経済規模のシェアがすう勢的に高まっていることを踏まえると、輸出額に占める中国のシェアが高まっていることは不思議ではない。ただし、この間のシェア上昇には、新型コロナウイルス問題が大きく影響したことが考えられる。
各国の消費者は感染リスクを警戒して、飲食、旅行、アミューズメント関連などのサービス消費を減らし、家での生活をより豊かにするため、家具、家電製品、日用品、自動車など財への消費を増やすという、消費行動の構造変化が進んだ。財の需要が高まることで、「世界の工場」である中国製品への依存が強まったと考えられる。
さらに、新型コロナウイルス問題が発生した当初は、中国が感染をいち早く抑え込んだ一方、それ以外の国では感染の拡大から生産活動が強く制約されたことも、医療関連品なども含めて、中国製品への需要が世界的に大きく高まるきっかけとなった。
また今春からは、米国の利上げの影響で中国人民元はドルに対して大きく下落している。さらにその中で、中国での物価上昇率が他国比で低いことから、中国製品の価格競争力が相対的に高まっていることも中国の輸出を後押ししているはずだ。
長期的な要因としては、政策的な支援も影響して中国が先端分野での存在感を高めていることも、輸出全体のシェア向上に貢献している。中国はここ何年か、自動車、エンジン、重機、半導体、スマートフォンなどの高性能製品や、電気自動車(EV)やグリーンエネルギーといった新テクノロジー分野で着実に世界で市場シェアを伸ばしてきている。
中国製品への依存度上昇がもたらす功罪
このように、新型コロナウイルス問題をきっかけに、中国製品への依存度を高めてきたことが、足元の世界経済には逆風となっている面がある。過去数か月間の中国政府による「ゼロコロナ政策」の影響である。そのもとでの事実上の都市封鎖は、中国経済に打撃を与えただけでなく、グローバル・サプライチェーンで中国への依存を強めている海外経済にも大きな打撃となったのである。
中国と先進国とが、ともに経済安全保障の観点から相互の経済依存度を下げようとしているにもかかわらず、実際には上昇しているという事実は、両陣営が安全保障分野を含めて全面的な対立に陥るリスクを低下させているという側面があるのではないか。しかし他方で、そうした状態の下で経済制裁などを通じて両陣営が対決色を強めた場合には、双方の経済が大きく傷つくというリスクを高める側面もあると言えるだろう。
(参考資料)
"Pandemic Bolsters China's Position as the World's Manufacturer(コロナ下で中国依存に拍車 「世界の工場」拡大)", Wall Steet Journal, August 23, 2022
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。