原発の新増設、運転期間延長の検討を指示
安定的な電力供給の確保と2050年カーボンニュートラル達成の2つの観点から、岸田首相はこの冬に向けで最大で9基の原発稼働を進める方針を、今まで示してきた。現時点で稼働している原発は6基である。
さらに24日に開かれたGX(グリーン・トランスフォーメーション)実行会議で岸田首相は、原発政策について、事実上、従来の政府方針の転換を示唆する発言をして、大いに注目を集めた。第1は、原発の新増設の検討、第2は、原発の運転期間の延長の検討、である。
第1の原発の新増設の検討について岸田首相は、「次世代革新炉の開発・建設など政治判断を必要とする項目が(会議で)示された。あらゆる方策について年末に具体的な結論を出せるよう検討を加速してください」と発言している。実際に原発を新増設する政府方針が正式決定されれば、2011年の東京電力福島第一原発事故以来の大きな政策転換となる。
第2の原発の運転期間は、東京電力福島第一原発事故を受けて、2013年に施行された改正原子炉等規制法で原則40年、最長60年と規定されている。岸田首相はその延長を検討するように指示したのである。実際の延長には法改正が必要になるとみられる。
従来の原発政策は2050年カーボンニュートラル目標と相いれない
このような原発政策の方針転換に向けた検討は、国民の間で強い反発を招く可能性がある。それゆえ政府は、今までそれを控えてきた面がある。
しかし、ウクライナ問題によるエネルギー調達リスクの高まりと電力の安定供給への不安が高まる中、原発の利用拡大について国民の理解がより得られやすくなっている、との判断が政府内にはあったのではないか。
さらに、岸田政権の下で衆院選挙、参院選挙という2つの国政選挙を終えたことで、選挙への影響を気にすることなく、国民の意見が大きく分かれる原発政策の方針転換の議論を始めることができる、と政府は考えたのかもしれない。
重要なのは、従来の原発政策は、2050年カーボンニュートラル達成という目標と相いれない、という点であろう。
第6次エネルギー基本計画では原発政策の修正に言及されず
昨年政府が示した第6次エネルギー基本計画で、2030年度の総発電量に占める再生可能エネルギーの比率は「36~38%」とされた。2015年に決められたそれ以前のエネルギー基本計画では、その比率は「22~24%」であった。しかし、2019年度時点での実績で同比率は18%程度でしかなく、新しい計画の達成には向こう8年のうちに急激な引き上げが必要となり、その実現可能性は見えてこない。
一方、原子力による発電比率は「20~22%」と、従来の計画の比率が維持された。その目標を達成するためには、電力会社が現在稼働を申請している27基すべての運転が前提となる。しかし現時点で稼働しているのは6基しかない。震災から10年以上が経過してもなおこの水準にとどまっているのが現実だ。
仮に、2030年度の目標がなんとか達成されるとしても、それ以降も、再生可能エネルギーの利用が大幅には高まらず、2割程度の原子力による発電比率を維持していくことが必要になる可能性が考えられる。それを実現するためには、原子力発電所の稼働年数を40年に限り、一回限り60年に延長できる、という現在の法律の規定を大きく見直し、稼働の大幅延長が必要となる。あるいは、原発のリプレース(建て替え)や新設を実施することが必要となるのである。
しかし第6次エネルギー基本計画には、それらに関する記述は盛り込まれなかった。原子力発電所のリプレースや新設、あるいは稼働年数の延長には、安全性の観点から否定的な意見が国民の間に強いことに、政府が配慮したためだ。
国民的議論の本格開始に期待
つまり、原発の運転期間を最長で60年とする一方、原発のリプレースや新設を行わない、という従来の政府の方針は、2050年カーボンニュートラル達成という目標と整合的ではない。それを知りつつ、政府は今までは世論の反発に配慮して、原発政策の修正の是非という問題を先送りしてきたのである。
原発政策の方針転換については、国民の意見は大きく分かれるだろうが、2050年カーボンニュートラル達成という目標と整合的になるように原発政策を見直すか、あるいは原発政策を維持する一方、2050年カーボンニュートラル達成という目標を取り下げるのか、どちらかの選択をいずれしなければならないのではないか。
今まで政府が曖昧戦略を続け、問題を先送りしてきた原発政策の修正の議論を始めた、という点で、今回の岸田首相の発言は評価できるのではないか。
(参考資料)
「岸田首相、原発の新増設の検討を指示 GX実行会議で発言」、2022年8月24日、朝日新聞デジタル
「岸田首相、原発の運転期間延長検討を指示 GX実行会議で発言」、2022年8月24日、朝日新聞デジタル
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