向こう半年から1年間はさらなる需要の下振れを予想
米連邦準備制度理事会(FRB)は7日にベージュブック(地区連銀経済報告)を発表した。同報告書は8月29日までの情報に基づき、各地区連銀の管轄地域での経済動向をまとめたものだ。次回9月20~21日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で検討資料に使われる。
同報告書は、軟調な米国経済には前回調査時の7月初め以降大きな変化は見られない一方、先行きは減速していくとの見方が企業の間で一般的であることを示した。 家計にとっては、物価高と金利上昇の2つが大きな逆風となっている。賃金を上回る物価上昇を受けて、個人は贅沢品などの支出を抑え、食料品などの生活必需品の支出を優先させる傾向を強めている。こうした消費行動を受けて、全地区で自動車販売は低調である。金利上昇や在庫不足もその販売低調の要因だ。
また、すべての地区で住宅販売は減少しており、住宅市場の状況は著しく弱くなっている。住宅建設には資材不足など供給面の問題もある。
企業活動については、サプライチェーンの問題や人手不足によって、製造業の生産活動は制約を受けている。
物価動向については、12地区のうち9地区で物価上昇率の鈍化が報告された。食料、家賃、電気・水道料金、医療サービスなどでは高い価格上昇率が続いている一方、燃料価格は下落しており、また需要鈍化などの影響で輸送費の上昇傾向が弱まっている。鉄鋼、木材、銅などの価格上昇ペースの鈍化についても、いくつかの地区は報告している。
そして、先行きの経済については、調査先企業は向こう半年から1年間は、さらなる需要の下振れを予想している(The outlook for future economic growth remained generally weak, with contacts noting expectations for further softening of demand over the next six to twelve months.)。
11月にも利上げペースは縮小、円安ドル高傾向も一巡へ
今回のベージュブックが次回9月20~21日のFOMCでの政策決定に直接与える影響は限られるだろう。引き続き大幅な利上げが実施される見通しであり、0.5%の幅よりも0.75%の幅の利上げとなる可能性がやや高そうだ。
しかし、物価上昇率は鈍化傾向に転じつつあり、また、労働市場では労働供給の増加からひっ迫感が和らぎ、賃金上昇率が低下する傾向が確認され始めている。賃金上昇の下支えがなくなれば、今までの物価高や金利上昇の影響から、年末にかけて個人消費が顕著に悪化する可能性も考えられるところである。
物価高を定着させないとのFRBの強い覚悟はそう簡単には変わらないだろうが、政策金利が既に中立水準まで引き上げられたとみられる中、景気減速、労働市場のひっ迫緩和、物価・賃金上昇率の鈍化がさらに確認されていけば、FRBは少なくとも利上げのペースを低下させることになるだろう。連続利上げは少なくとも年内いっぱいは続く可能性が高いが、利上げペースの縮小は、早ければ11月のFOMCから始まるのではないか。来年に入ると、利上げを停止する様子見期間に入ってくる可能性も考えられるところだ。
利上げは続いていても、利上げペースが縮小されれば、米国の長期金利の上昇には歯止めがかかり、それが円安ドル高傾向を一巡させるだろう。この点から、今年3月に始まった急速な円安ドル高も、既に終盤戦に入っているとみておきたい。
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