為替介入時の水準まで円安が進む
先週末に発表された米国9月分雇用統計で、労働市場の堅調ぶりが改めて確認されたことから、金融市場では次回11月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で米国連邦準備制度理事会(FRB)が4回連続となる0.75%の大幅な利上げ(政策金利引き上げ)に踏み切る、との見方が強まった(コラム「 米国労働需給は緩やかに緩和(9月雇用統計):11月0.75%の利上げ継続の観測強まる 」、2022年10月11日)。
米国の長期金利が一段と上昇するとともに、ドル高円安が進み、11日の東京市場では円は1ドル146円台目前と、政府が9月22日に24年ぶりにドル売り円買いの為替介入に踏み切った水準にほぼ並んだ。
ただし、現時点(日本時間11日17時)では、政府は為替介入を再開していない。政府は145円程度を防衛ラインに設定していると推察されるが、円安の流れは比較的緩やかに進んでおり、投機的な動きが強まっている状況とは言えないことが、介入を見合わせている理由だろう。
日本の為替介入は米国やその他の国々から積極的な支持を得ていない
10月12~13日にワシントンでG20財務相・中央銀行総裁会議が開かれる。これに関連して鈴木財務相は11日の記者会見で、「為替介入については、米国をはじめ関係各国に理解を得る努力をしてきた」、「日本の為替介入について日本の立場を説明する予定」、「米国当局は日本の為替介入に一定程度理解していると思う」、「ドル独歩高への対応が議題になる」といった趣旨の発言をしている。
これらの発言から読み解けるのは、日本が実施した単独介入は、米国やその他の国々から積極的な支持を得ていないことだ。それが故に、G20財務相・中央銀行総裁会議で日本は申し開きをしなければならないのだろう。事前に米国は為替介入を認めたはずであるが、それも仕方なく、しぶしぶ認めたのだろう。そのことは、鈴木財務相の「一定程度理解」という、奥歯に物が挟まったような表現からもうかがい知れる。
その場合、米国がリップサービスなどで日本の為替介入を支援し、為替介入の効果を高めてくれることは全く期待できない。
為替介入実施に制約も
米国は、日本に続いて他の先進各国も雪崩を打ったように為替介入に踏みきり、国際協調が大きく揺らいでしまうことを強く警戒しているはずだ。そのため、水面下では日本の為替介入に何らかの条件を設定している可能性もあるのではないか。例えば、介入は為替市場で投機的な動きが強まり、為替相場が大きく変動している場合に限る、などといったものである。そもそも主要国の為替介入は、為替の流れを操作するためのものでなく、投機的な動きを抑えるための例外措置、との建前で実施される。
しかし実際には、日本政府は、為替市場のボラティリティの高まりだけでなく、物価上昇圧力を高める円安方向への為替の動きを抑えたいと考えている。しかし、そのもとでは、為替介入が常態化してしまう可能性がある。仮に米国当局が、日本の為替介入は、為替市場で投機的な動きが強まり、為替相場が大きく変動している場合に限るとの条件を示している場合には、この先の日本の為替介入の機会は大きく制限されることになるだろう。
米国へのドル独歩高批判から国際協調が揺らぐ可能性、利上げに影響する可能性
ところで、G20財務相・中央銀行総裁会議では、日本の為替介入に加えて、「ドル独歩高への対応が議題になる」と鈴木財務相が述べている点も重要だ。これは、主要各国が、ドル高が自国にもたらす弊害、自国通貨安による物価上昇圧力の高まりや国内からの資金流出による金融市場の混乱などについて強い警戒を持ち、それをもたらしている米国の金融政策に強い不満を募らせている可能性を示唆していると考えられる。
G20財務相・中央銀行総裁会議では、各国の批判の矛先は、為替介入を実施した日本ではなく、ドル独歩高を黙認する米国に向かう可能性がある。そうした批判に米国が応じない場合には、自国通貨安を回避するための単独介入が、先進国の間に広がり、国際協調が大きく揺らいでしまう可能性があるだろう(コラム「 継続するポンド不安と各国政策の手詰まり感:国際協調に綻び 」、2022年9月27日)。
他方、そのような批判が、いずれFRBの急速な利上げを一定程度制約することも考えられる。こうした点から、今回のG20財務相・中央銀行総裁会議は、金融市場で非常に注目されるものとなる可能性があるだろう。
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